「死はなにものでもない」─キケロー『老年について』(66節)

2016年8月30日

キケローは『老年について』(De Senectute)の中でカトー(老人の鑑として登場)に次のように語らせています。(66節)

Avaritia vero senilis quid sibi velit, non intellego;
老人の貪欲さが何を自らに求めているか、私は理解できない。

potest enim quicquam esse absurdius quam, quo viae minus restet, eo plus viatici quaerere?
というのも、人生行路の残りが僅かになるほど、路費をいっそう多く求めること以上に愚かなことは、何がありえようか。

XIX. Quarta restat causa, quae maxime angere atque sollicitam habere nostram aetatem videtur, adpropinquatio mortis, quae certe a senectute non potest esse longe.
我々の年齢をもっとも苦しめ、不安なものにしているように見える第四の原因が残っている。死の接近である。死は確かに老年から遠いものではありえない。

O miserum senem qui mortem contemnendam esse in tam longa aetate non viderit!
おお、みじめな老人よ、これほど長い年齢の中で死が軽視すべきものと悟れなかったとは。

quae aut plane neglegenda est, si omnino exstinguit animum, aut etiam optanda, si aliquo eum deducit, ubi sit futurus aeternus; atqui tertium certe nihil inveniri potest.
死はあるいは明らかに無視すべきものである、もしも魂を完全に消滅させるものであれば。(死は)あるいは望ましいものでさえある、もし魂が永遠に存在するような別の場所に魂を導くのであれば。そして第三(の可能性)は確かに見出しえない。

老年について (岩波文庫)
キケロー 中務 哲郎
4003361121