Hectora quis nosset, si felix Troja fuisset?

2016年6月23日

「ヘクトラ・クゥィス・ノッセト・シー・フェーリークス・トロイヤ・フイッセト」と読みます。
全体の意味は、「ヘクトルの名を (Hectora) 誰が (quis) 知ろうか (nosset)、もし (si) トロイヤが (Troja) 幸福で (felix) あったなら (fuisset)」となります。
Hectora はトロイヤ最大の英雄ヘクトル(Hector)の単数・対格で、nosset の目的語です。
quis は「誰が」を意味する疑問代名詞 quis の男女性・単数・主格です。
nosset は「知る」を意味する第三変化動詞 nosco (ノースコー)の接続法・能動態・過去完了、3人称単数の形 novisset の別形です。この動詞は完了で「知っている」、過去完了で「知っていた」を意味するので、この非現実の条件文で用いられるnossetについては、「知る」と訳します(非現実の条件文なので時制が一つずれます)。
si は「もしも」を意味する接続詞です。
felix は「幸福な」という意味の第三変化形容詞・女性・単数・主格です。
Troja はホメーロスの描いた叙事詩『イーリアス』の舞台です。
fuisset は、sum (・・である)の接続法・能動相・過去完了・3人称・単数です。主語は Troja です。
「si + 接続法・過去完了 / 接続法・過去完了」の構文で、過去に於ける事実に反する事柄を仮定します。実際には、トロイヤはギリシアに滅ぼされ、悲劇的な運命を辿りました。しかし、その過程で、ヘクトルは力の限り戦い、名を残すことができたのです。
オウィディウス『悲しみの歌』4.3.75 の表現です。短くとも心に残る言葉です。

悲しみの歌・黒海からの手紙 (西洋古典叢書)
オウィディウス 木村 健治
4876981132