Hectora quis nosset, si felix Troja fuisset?

2020年5月12日

「ヘクトラ・クゥィス・ノッセト・シー・フェーリクス・トロイヤ・フイッセト」と読みます。
全体の意味は、「ヘクトルの名を (Hectora) 誰が (quis) 知ろうか (nosset)、もし (sī) トロイヤが (Trōja) 幸福で (fēlix) あったなら (fuisset)」となります。
Hectora はトロイヤ最大の英雄ヘクトル(Hector,-oris m.)の単数・対格で、nosset の目的語です。
quis は「誰が」を意味する疑問代名詞 quis,quid の男(女)性・単数・主格です。
nosset は「知る」を意味する第3変化動詞 noscō,-ereの接続法・能動態・過去完了、3人称単数 nōvisset の別形です。この動詞は完了で「知っている」、過去完了で「知っていた」を意味するので、この非現実の条件文で用いられるnossetについては、「知る」と訳します(非現実の条件文なので時制が一つずれます)。
sī は「もしも」を意味する接続詞です。
fēlix は「幸福な」という意味の第3変化形容詞fēlix,-īcisの女性・単数・主格です。
Trōja はホメーロスの描いた叙事詩『イーリアス』の舞台となる国の名です。
fuisset は、不規則動詞sum,esse(ある)の接続法・過去完了、3人称単数です。主語は Trōja です。
「sī + 接続法・過去完了 / 接続法・過去完了」の構文で、過去における事実に反する事柄を仮定します。実際には、トロイヤはギリシアに滅ぼされ、悲劇的な運命を辿りました。しかし、その過程で、ヘクトルは力の限り戦い、名を残すことができたのです。
オウィディウス『悲しみの歌』4.3.75 の表現です。短くとも心に残る言葉です。

悲しみの歌・黒海からの手紙 (西洋古典叢書)
オウィディウス 木村 健治
4876981132