ラテン語の教科書をめぐるQ&A

2016年6月5日

Q ラテン語の教科書は何がお勧めですか。

どれもすばらしいです。唯一の難点は、ほとんどの教科書が独習者向けではないという点です(=大学の授業で使うことを念頭に置いて書かれているため、解答の載っていない本がほとんど)。一方、手前味噌になりますが、私の書いた教科書はその点独習者を念頭に置いています。>>『しっかり学ぶ初級ラテン語』(ベレ出版)例文が500、羅文和訳の練習問題が200あり、それぞれの解答はもちろん、解答に至る解釈の道筋も紙幅の許す範囲で説明しました。

同じく解答の付いた教科書としては、岩波全書の『ラテン語入門』 (岩波全書 172)があります。私のおぼろげな記憶では、犬養道子氏や加藤周一氏がこの教科書でしっかりラテン語を学んだと書いておられました。基礎のわかった人は、大いに得るところがあるでしょう。ただ、ラテン語の和訳の問題の解答があるといっても、なぜこのような訳になるのかの理由はわからなければわからないままです。

ラテン語を独習するメンバーの集う場として、私はラテン語MLを開催しています。そこでは、大学書林の『独習者のための楽しく学ぶラテン語』を教科書に使って勉強会を続けています(今まで何回繰り返したかわかりません)。この本は、初めて使用するには敷居が高いです。練習問題(羅文和訳)のレベルが高く、骨がおれます。作品からの引用が多いので、前後関係がわからないと???となることが多いですが、逆に、そこを説明することで「なるほど!」と感じられるチャンスもいっぱいあります。

Q ほかにはありませんか。

『ラテン語初歩 改訂版』(岩波書店)があります。『独習者のための楽しく学ぶラテン語』同様しっかりした装丁のつくりです。授業で使うための工夫が随所に施されています。つまり、最初から最後まできちんと終えることを意識して作られています。練習問題の羅文和訳も和文羅訳も双方がヒントになるように工夫されています。問題数も抑制されています。一冊をやり通したという充実感を味わうには最適です。山の学校ではこの本を教科書に使っています。

中山恒夫先生の『標準ラテン文法』(白水社)は装丁はシンプルでまさに「ザ・ラテン語教科書」というタイプの本です。必要なことを網羅していますし、練習問題の数も結構あります。先生について学ぶ環境で使用するにはうってつけの本です。

ちなみに私は『新ラテン文法』でラテン語の基礎を学びました。この本は教科書としてはもっとも歯ごたえがあると思います。ひととおり基礎を学んだ後も、参考書として使えます。索引が充実しているので、文法のキーワードで検索するのが楽です。

Q ラテン語の教材を選ぶときに気をつけることは?

A 名詞変化の順序は本によって多少変わります。「楽しく学ぶラテン語」や「ラテン語初歩」では、主格、呼格、属格、与格、対格、奪格の順ですが、インデックス式 ラテン文法表では、主格、呼格、対格、属格、与格、奪格の順です。

この順序の違いはあまり気にしなくてよいと思います。実際にラテン語を読む際に必要な知識は、この名詞の形が何か、瞬時に答えられる力です。それを鍛えるには、単語カードの表裏を使うといいでしょう。たとえば、表にrosaの単数・主格から複数・奪格まで10枚書き(呼格を入れたら12枚)、裏に答えを書きます(rosaの単数・主格の裏面はrosaですが意味として『バラ』と書けばいいでしょう)。カードはバラバラにして取り組んでこそ意味があります。最初は教科書の順序どおり覚え(←それには2通りある)、次は今のカード方式で知識を確認し定着させること。カード方式の学習について「順序の違い」は影響を及ぼさないと考えられます。なお、カードを書くのは面倒だという方のために、オンラインのクイズをご用意したのでぜひ利用して下さい。>ラテン語クイズ

次に気をつけることとして、教科書によって文法用語が異なる場合が多々あるという問題。たとえばDeponent 動詞のことを「新ラテン文法」では「形式所相動詞」と呼びますが、「楽しく学ぶラテン語」では「形式受動態動詞」と呼びます(私の教科書は後者)。この混乱が気になる人は、最初から英語の文法用語を意識しておくといいでしょう。研究社の「羅和辞典」を例に取ると、deponent動詞のひとつ loquorの見出しは次のようになります。

loquor -quī locūtus sum, intr, tr dep

最後にdepとあります。これがdeponentのことだとわかればよいわけで、当然外国の辞書にもdep とかかれています。