格変化の種類

主格、呼格以外を「斜格(oblique case)」と総称します。主な格の種類として、主格(しゅかく)、呼格(こかく)、属格(ぞっかく)、与格(よかく)、対格(たいかく)、奪格(だっかく)の6種類があります。特殊な格として地格(ちかく)があります。以下、それぞれの格について説明します。

主格(しゅかく)nom.(nominative / nominativus)

  • 主格は主語を示します。例:Fāma volat.(噂は飛ぶ。)Puella cantat. (少女は歌う。)
  • 主格は文の補語にもなります。補語とは、I am a student. (SVC)の構文における student (C)に相当する語のことです。
  • 例:Deus erat verbum. (言葉は神であった。)
  • この例文は「聖書」の言葉です(「ヨハネ伝」の冒頭)。Deus と verbum がそれぞれ主格です。(deus 「神」も verbum 「言葉」もともに第2変化名詞。前者は男性名詞、後者は中性名詞。)erat は不規則動詞 sum (である)の直説法・未完了過去であり、「~であった」の意味を示します。
  • この文の場合、(1)「神は言葉であった。」と訳すのか、(2)「言葉は神であった。」と訳すのか判然としません。文法的には両方可能です。英語と異なり、ラテン語の場合語順は自由です。文型で主語、補語が決定されるのではないため、実は(1)でも(2)でも訳としては正しいのです。
  • では、どのような根拠で上の「聖書」の訳は「言葉は神であった。」と決定できるのかと言えば、元のギリシア語の原文(καὶ Θεὸς ἦν ὁ Λόγος.)では verbum に相当する言葉(Λόγος)に定冠詞(ὁ)がつけられているからです(ギリシア語の場合、主語に当たる」語に定冠詞をつけます)。
  • ラテン語には冠詞がないことに注意しておく必要があります。それゆえ、前後関係などによって、「おそらくこう理解するのが正しいだろう」という推測で意味をくみ取っていくことになります。
  • 主格が文の補語になる例として、Homō sum.を紹介します。homōは「人間」を意味する第3変化名詞の単数・主格ですが、この文の主語ではありません(文頭にあるとそう思ってしまいますが)。
  • ラテン語は主格が二つ並ぶときがあり、慣れないと訳しづらく感じます。応用的な話ですが、Q&Aの形で説明しています。

呼格(こかく)voc.(vocative / vocativus)

  • 呼びかけの表現で使われます。間投詞を伴う場合が多いですが、伴わないこともあります。「おお~よ」と通例訳されます。第2変化の男性名詞以外は、主格と同じ形です。
  • 第1変化名詞の例:puella! (おお、少女よ。)
  • 第2変化の男性名詞(単数)の例:Et tū, Brūte? (ブルートゥスよ、おまえもか)
    • 第2変化の男性名詞 Brūtus (ブルートゥス)の単数・呼格は Brūte (ブルーテ)となります。Brūtusではありません。語尾が-eとなります。このように、単数・主格と単数・呼格の形が異なるのは第2変化男性名詞(単数)の特徴です。
    • 別の例として、「主人」を意味する第2変化男性名詞は dominus (ドミヌス)ですが、その単数・呼格は、domine (ドミネ)となります。ラテン語の歌詞を用いた合唱曲に「ドミネ」という表現がよく出てくるので、すでにご存じの方も多いでしょう。
  • ō以外の間投詞(参考)。ā, āh ああ attat おっと、おお au (hau)、ei (hei)、heu、ēheu ああ  eu やったぞ(喜び) hui えっ?(驚き) ha, hahae, hahahe ははは(嘲笑) st しっ静かに vae ああ(悲嘆) vāh, vah おお(驚き、喜び、怒り)
呼格の例文
    1. Ō caelum, ō terra, ō maria Neptūnī!  おお天よ、おお大地よ、おおネプトゥーヌスの海よ。
    2. Heu pietās! heu prisca fidēs!  ああ敬虔よ、ああ古来の信義よ。
    3. Ō vītae philosophia dux.  おお人生の指導者たる哲学よ。

属格(ぞっかく)gen.(genitive / genitivus)

  • ラテン語の属格は英文法の所有格に相当します。英語の of + α(アルファ)の表現も、ラテン語では属格一語が表します。
  • 属格の語尾を見極めることによって、ラテン語の名詞の5つのタイプが識別できるので、その意味でこの格は重要です。辞書では見出しの次に属格の形を記します。「rosa,-ae f.バラ」のようにです。この例では、バラを意味するrosaの単数・主格はrosaで、単数・属格はrosaeだとわかります。
属格の語尾一覧(重要)

第1変化名詞 -ae
第2変化名詞 -ī
第3変化名詞 -is
第4変化名詞 -ūs
第5変化名詞 -eī(または-ēī)

属格の用例

所有の属格

  • もっとも一般的な属格の用法です。英語ならA of B(BのA)、またはB’s Aと表現するところ、ラテン語はof Bの部分(または B’s)を属格一語で表します。例を見ましょう。「歴史の父」という表現はどうなるでしょうか。答えはpater historiae(歴史の父)です(Cic.Leg.1.5)。「歴史」はhistoria、「父」はpaterです(それぞれ単数・主格の形)。「歴史の」とする場合、historiaを単数・属格の historiae にします。語順は historiae paterでもpater historiaeでもかまいません。「歴史の父」とは、キケローによるギリシアの歴史家ヘロドトスの評価です。
  • その他の属格の用法については、「属格のさまざまな用法」をご覧ください。

与格(よかく)dat.(dative / dativus)

  • 最初のうちは、「~に」と訳せばよいです。間接目的語として用いられます。たとえば、Rosam puellae dō. (私は少女にバラを与える)という例文で、puellaeがpuella,-ae f.(少女)の単数・与格です。
  • 与格の用法はたくさんあります。関心の与格、共感の与格、行為者の与格、所有の与格、判断者の与格、分離の与格、目的の与格、利害関係の与格・・・など。一度に覚えきれません。このうちよく出てくるのが「判断者の与格」です。「~にとって」と訳します。例として、Nihil difficile amantī. を見ましょう。語彙は、「nihil:何も~ない difficilis,-e 困難な amō,-āre 愛する、恋する」です。nihilが主語でdifficile(中性・単数・主格)が補語です。amantīはamōの現在分詞amansの男性・単数・与格です。この与格は「~にとって」と訳せます。「愛する者にとって何も困難なものはない」という意味です。
  • 別の例をあげましょう。Dictum sapientī sat est.において、sapientīがsapiens(智者)の単数・与格です。dictumは「一言」、satは「十分」を意味します。「智者にとって一言で十分である」、「智者には一言で足りる」という意味です。

対格(たいかく)acc.(accusative / accusativus)

  • 目的語を表します。
    • Rosam amō.  私はバラを愛する。
    • Lūnam videō.  私は月を見る。
  • ad などの前置詞とともに副詞句を作ります。
    • Ad puellam rosās mittō.  私は少女にバラを送る。
  • 対格不定法:不定法の意味上の主語は対格となります。
    • Intellegō sapere. 私は君が賢明であると理解している。
  • 広がりの対格
    • multōs annōs 長年にわたって
  • 方向の対格
    • Rōmam eō. 私はローマに行く。
  • 二重対格
  • 限定の対格
    • Hannibal femur trāgulā graviter ictus cecidit. ハンニバルは太ももを投げ槍でひどく打たれ、倒れた。(femurはfemur,femoris n.太ももの単数・対格)。
  • 感嘆の対格
    • Mē miserum! 哀れな私よ!
    • Ō miserās hominum mentēs, ō pectora caeca! Lucr.2.14 おお惨めな人間の精神よ、おお盲目の心よ!

奪格(だっかく)abl.(ablative / ablativus)

  • 奪格はそれ自体で「とともに」、「によって」、「から」、「において」といった様々な意味を持ちます。
  • また、前置詞とともに用いられることでさらに多様な表現を生み出します。なお、前置詞とともに用いられる名詞は対格か奪格になります。
  • 比較の構文で「~よりも」に相当する語は奪格で表されます。

地格(ちかく)loc.(locative / locativus)

  • 場所を示す表現として、ラテン語では一般に in 「において」と奪格、apud 「の所で」と対格を用いますが、in を用いずに奪格だけで表現することもあります(「場所の奪格」)。
  • しかし、地名と普通名詞(domus「家」、rus「田舎」)に限り、地格と呼ばれる格を用いることがあります。
  • たとえば、Rōmae (ローマに)、Rhōdī (ロドゥス島で)、Athēnīs (アテーナエで)、domī (家に)、humī (地上に)、rūrī など。
    • Rōmae habitō. 私はローマに住んでいる。
    • Domī maneō. 私は家にとどまっている。

形容詞の格変化

上述の格変化は形容詞にも認められます。

形容詞は修飾する名詞や代名詞の性・数・格と一致した変化をします。

  • bonus dominus(よい主人は)・・・ともに男性・単数・主格。
  • bona domina(よい女主人は)・・・ともに女性・単数・主格。
  • bonus pater(よい父は)・・・ともに男性・単数・主格。
  • bona māter(よい母は)・・・ともに女性・単数・主格。
  • Vērī amīcī rārī.(真の友はまれ)・・・いずれも男性・複数・主格。

形容詞はそのまま名詞として用いられるケースが少なくありません。「検索」ボックスに「形容詞の名詞的用法」と入れて検索すると、例文がいくつも見つかります。

  • bona 財産
  • bonum 善
  • bonī 立派な人々

『しっかり学ぶ初級ラテン語』の付録「ラテン語の活用変化一覧(pdf)」の名詞関連をご覧頂き、暗記用にご利用ください。何も見ないで活用変化の一覧表を紙に書き出せれば合格です。すらすら書けるまで練習してください。

確認テスト

1. 第1変化名詞
2. 第1、第2変化名詞
3. 第3変化名詞
4. 第4・第5変化名詞
5. 第1・第2変化形容詞
6. 第3変化形容詞

変化がすらすら書けるようになって挑戦するとよい練習になります。おおいに活用してください。