『親子で絵本を楽しみましょう』
雪が降ると、子どもたちは目を輝かせます。いつもの景色が一瞬にして特別な世界に変わります。絵本を開くことも、それによく似ています。ページをめくるたびに、親子で小さな冒険に出かけることができます。自宅の部屋が、森や山に、お城や海に、遠い国の街角に──たちまち姿を変えます。「絵本」と聞くと、「読まなければ」「時間をつくらなければ」と思われるかもしれません。けれども、難しく考えなくてよいのです。まずは、楽しむこと。親子で一緒に絵本を楽しみましょう。
絵本を楽しむ極意は、日ごろから子どもとの語らいを楽しむことです。「語る」と聞くと、「何を語ればよいのだろう」と身構えるかもしれませんが、命令口調でなければ何でもよいのです。大人は聞き役でもかまいません。むしろ、そのほうが自然で、良好な関係が長続きするように思います。「幼稚園のことを何も語ってくれなくて」というお声をいただくことがあります。子どもは千差万別で、一概には言えませんが、充実して時を過ごしていればこそ、自分が何をしたかを取り立てて話す理由を感じないこともあるのかもしれません。
子どもが何を大切に思っているか。どこに目を向け、何に心を動かしているのか。大人が子どもの心の声に耳を澄ませるかぎり、言葉は頻繁に交わさなくてもよいでしょう。これはいわば、「心の語らい」です。英語の詩に「耳に聞こえる調べは美しい。だが、耳に聞こえない調べはもっと美しい」という表現があります。子どもの寝顔を見ながら、どんな夢を見ているのだろう、と夫婦で語り合う時間。それもまた、耳に聞こえない美しい調べに耳を澄ますひとときではないでしょうか。このような「心の語らい」があってこそ、絵本ははじめて深い意味を持つのだと私は思います。
文字の読めない子どもにとって、読み聞かせは言葉の授乳のようなものです。体が栄養によって育つように、心は言葉によって育ちます。ここで育まれるのは、情緒であり、見えないものを思い描く力、すなわち想像力です。読み聞かせは、子どもの情緒と想像力を豊かに育み、読む力の根っこを育てます。「読む力」とは、文字で書かれていないことを感じ取り、行間を想像し、言葉の背後にある書き手の思いを汲み取る力を意味します。
同じ本を繰り返し読んでも、子どもは飽きることを知りません。次に来る言葉を知っている喜び。少しずつ違う声色の変化に気づく面白さ。読み聞かせは、毎回が新しい体験です。何度も読み返すうちに、同じはずの文章が違って見えてくる。その体験こそ、やがて読書の喜びへとつながっていきます。
早く読めるようになることよりも、たくさん知識を得ることよりも、幼児期には心の中に広く深い世界を持つことが何より大切だと思います。幼児期にたっぷり絵本を楽しんだ子どもは、のちの学びにおいて自然と豊かな土台を持つようになるでしょう。しかし、それは「将来のために」と思って読み聞かせをした結果ではありません。楽しい時間の積み重ねの中で、ひとりでに形づくられていく人生の礎なのだと思います。
時はまさにAI時代です。すぐに答えを求めるのではなく、立ち止まり、自分の内側で問いを深める力は、これからますます貴重になるでしょう。その原点は、幼い日の豊かな語らいと、読み聞かせの時間にあるのだと思います。
読み聞かせは、デジタルメディアでは代替できません。録音と生の演奏の違い以上に、そこには大きな隔たりがあります。読み聞かせの一瞬一瞬、親の愛は声となり、子どもの心に注がれます。どうぞ、比べず、急がず、親子で絵本を楽しんでください。
文章/園長先生