お山の絵本通信vol.215

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ぞうのエルマー』

デビッド・マッキー/文・絵、きたむらさとし/訳、BL出版2002年

今回、紹介させていただく絵本は私が小学生の頃に出会いました。色とりどりのパッチワーク模様をしたぞうのエルマーは、ほかのぞうとはちょっと違うけれど、その個性がとても魅力的なキャラクターです。物語の舞台は、たくさんの動物たちが仲良く暮らす森。そこには灰色のぞうたちがたくさんいましたが、エルマーだけは全身カラフルな模様。エルマーは明るくてユーモアがあり、みんなの人気者です。

ある日エルマーは、「自分だけ見た目が違う」と気にして、灰色の果汁を体に塗って、みんなと同じ姿になります。すると、誰もエルマーだと気づきませんでした。エルマーにとって、みんなに馴染むことができ、本望であったはずなのですが、なぜか嬉しいという気持ちは芽生えず、違和感が残っていました。森のぞうたちもなんだか元気がない様子。そんな姿を見たエルマーは「ブオオオー!」と大声で叫びました。その声に驚きつつも、ぞうたちは一斉に笑い出し、「エルマーだったんだ!」と気づきます。見た目は灰色でも、中身はちゃんとエルマーのまま。みんなはそのエルマーだけが持つユニークさを、心から愛していました。

私が当時この絵本を読んだ際、「ブオオオー!」と叫ぶ場面がとても印象に残っています。見た目が違っていても、みんなはエルマーの“らしさ”にちゃんと気づいていたんだ、というあたたかさに心がじんとしました。また、みんな、エルマーの “らしさ” が好きであり、エルマー自身も自分らしい自分を誇らしく思っているように感じ、当時の私は、すごく勇気づけられました。私自身も幼い頃、お友達に嫌われたくないという思いから、人の顔色をうかがうことが多々ありました。周囲に合わせて自分の気持ちを我慢することが続いた結果、いつしか、口癖は「なんでもいいよ。」となり、自分のやりたいこと、好きなことも明確に分からなくなってしまうことがありました。でも。この絵本に出会い、自分の思いは違っていていい、違っているからこそ面白いのだと知ることができました。

今、私は日々、子どもたちと接する中で、それぞれの子どもがしっかりと自分の思いや考えを持っていて、それを思いやりながらお友達に伝える姿に出会い、毎日、本当にすごいなあと思います。ただ、小学校に行くと、少しずつ周囲との関わり方が変わり、言いたいことを我慢してしまうこともあるかもしれません。でも、違うからこそ楽しいという思いを持って、みんなの「違い」をお互いに認め合える力やエルマーのような「自分らしさ」を大切にしてもらえたらと思います。そんな願いを込めてこの絵本を紹介します。

『ぞうのエルマー』は、子どもにも大人にも「自分らしく生きることの大切さ」をやさしく教えてくれる、本当にあたたかい一冊です。実際に、エルマーをパッチワークに描いたのは自分自身であり続けてほしい、違いや多様性を受け入れてほしいという作者のデビッド・マッキーさんの願いでもあるそうです。ぜひおうちでも、お子さまと一緒に読んでみてください。

文章/Kanade先生