お山の絵本通信vol.210

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『14ひきのあさごはん』

いわむらかずお/文・絵、童心社1983年

みなさんは、朝をどのように過ごされていますか? 私は顔を洗って歯を磨いて、朝ごはんを食べて、洋服に着替えて…。特に変わらず、普通の朝を過ごしています。子ども達はどうでしょう。朝、「おはよう!」と挨拶すると、「今日、ちょっと眠たかったんだあ。」、「今日も朝ごはん、全部食べたよ!」と朝の出来事を伝えてくれます。こう見ると、大人も子どもも変わらず、朝は一日をはじめる準備の繰り返しのように感じられます。私は幼少期、変化の少ない朝に対して、「起きるのやだなあ。」、「歯を磨いたり洋服に着替えたりするの、面倒だなあ。」と後ろ向きになることもありました。さて、14匹のねずみの家族はどうでしょうか…?

今回、紹介させていただく絵本は14匹のねずみの家族が起きてから朝ごはんを食べて一日をスタートするまでの物語を描いたものです。まず、おじいさんが誰よりも早く起きて、たき火をします。そしておばあさん、お母さんが起きて、子ども達も段々と目を覚ましていきます。最後にお父さんが起きて、みんなで洋服に着替え、冷たい水で顔を洗い、 “のいちご” を摘みに行く準備をします。いざ出発の時。水の流れる音を聞きながら、木の橋を渡っていくと、やっと “のいちご” がある場所に到着しました。みんなで “のいちご” を摘んでいる際、あまりにもおいしそうに輝く “のいちご” を見て、ぱくりとつまみぐいをしている子どももいました。その帰りの道中では、ホタルブクロに出会い、子ども達は素敵な帽子にして持って帰りました。一方自宅では、どんぐりの粉でパンを作ったり、きのこのスープを作ったりして、みんなの帰りを待っています。そして子ども達が帰ってきて、摘んできた “のいちご” とパンとスープ、ジュース、ジャムを机にのせて、朝ごはんの支度ができました。みんなで作った朝ごはんをみんなで食べて、一日のはじまりを迎えます。

一見、私たちと同じように、繰り返しの中で過ごしているように感じられますが、ねずみ達の眼差しは水の音、道中のホタルブクロなど、日常の中で小さな発見をしているように思います。実際に、子ども達と過ごしていると、「先生見て! 素敵な色の葉っぱを見つけたよ!」、「何の種だろう。気になるなあ。」と子ども達にとっては無意識かもしれませんが、日常の小さな変化に気づく姿がたくさん見られています。はじめにも述べましたが、私は幼少期、朝に対して前向きになれない日もありました。その時にはこの絵本を読んで、ぼーっと雲を見つめてみたり、朝ごはんの音を聞いてみたり、日常の音や動きに目を向けて、発見できたときには、「私だから気づくことができたんだ!」と自信を持つことができ、嬉しい気持ちで一日のスタートをきっていました。当たり前の日常の中にも、視野を広げるとまた違った見え方をする毎朝があることを、この絵本が気づかせてくれました。

そして大人になった今、この絵本を読み返したとき、当たり前の生活が大切で幸せであることも、私に教えてくれました。みんなで準備をして、みんなでご飯を食べる時間。この春から一人暮らしをはじめ、当たり前だった時間をひとりで過ごすことになり、4月は少し寂しさを抱いていました。そのとき、当たり前の時間も私の小さな喜びに繋がっているのだと痛感しました。1学期、最後のお弁当の際、子ども達から「最後なんて寂しいよ…。」と言葉をこぼしている姿が見られていました。もちろん2学期になれば、またお弁当を一緒に食べることができるのですが、子ども達にとっても当たり前がなくなってしまうのは寂しいものであるのだと感じました。

これからも私自身が当たり前の時間を大切にし、時には日常に楽しみを見出しながら、子ども達と一緒に過ごしていきたいと思います。

文章/Kanade先生