お山の絵本通信vol.198

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『くるみ割り人形』

ケイティ・フリント/文、ジェシカ・コートーニー・ティックル/絵
中井川玲子/訳、大日本絵画2017年

いよいよ今年も12月半ば。園内ではサンタさんへのお願いを書いた手づくりのクリスマスカードを窓辺にぶら下げたり、さまざまな技法を使って製作したクリスマス帽子に真っ白な雪のような綿をあしらったりしながら徐々にクリスマスムードが漂ってきました。

クリスマスシーズンになると世界中で上演されるものにチャイコフスキーのバレエ作品「くるみ割り人形」があります。くるみ割り人形は200年以上前からあるドイツの工芸品でくるみを割るための道具ですが、物ごころついた頃から毎日練習していた私のピアノのカバーの上にはこのくるみ割り人形がいつも立っていました。小さな頃からある飾り人形ですが、よく見るととてもいかめしい顔をしているのでお守りのように思うことにしていました。ピアノのある洋間にはいろいろな国のお人形や中には着物を着た日本人形も飾ってありましたが、その人形達が出てくる夢を幼児期にはよく見たものです。いつもは動かない人形ですが、おかしなもので夢の中ではそれらがそれぞれにくるくると踊っている夢でした。楽しくもあり、またちょっと怖くもありました。小さな頃は自分自身が空を飛ぶ夢やバランスを崩して落っこちそうになる夢もよく見ました。

さて、今回ご紹介するバレエ音楽「くるみ割り人形」の絵本は、クララがクリスマスイブに人形をプレゼントされたばかりなのに弟が壊してしまい、クリスマスツリーの下で悲しくなって見た夢のお話になっています。昨年ご紹介した作曲家ヴィヴァルディ「四季」の絵本と同じく、場面ごとに冒頭だけ音楽を鳴らすことができる絵本です。最初はイブの夜、クララの家でお父さんとお母さんが主催するパーティーが開かれる場面からはじまります。〔♪序曲〕

主人公クララはクリスマスイブのお客さんの一人ドロッセルマイヤーおじさんから4つの人形とくるみ割り人形をもらいます。人形たちは床の上で踊り出しました。〔♪行進曲〕〔♪祖父のおどり〕

クララは嬉しくて、くるみ割り人形の歯の間にそっと小さなアーモンドを置いてみるとカチン! と二つに割れましたが、弟のフリッツがその人形の口に大きなくるみを手荒く押し込むとあっという間に 壊れてしまいました。クララは悲しくて泣き出してしまい心配で眠れない夜を過ごします。プレゼントにもらったほかのおもちゃの兵隊たちがぐんぐん大きくなり、階段にすんでいるねずみたちも怖いほど大きくなって出てきました。いよいよ戦いが始まります。戦いに負けそうになったその時、クララが勇気を出してねずみの王様にスリッパを投げつけると倒れてしまいました。〔♪くるみ割り人形とねずみの王さまの戦い〕

クララの勇気でくるみ割り人形の姿にされていた王子様があらわれ、ドロッセルマイヤーおじさんとともに王子様の王国にトナカイのそりに乗って出かけることになりました。雪の森を通り、お菓子の国へと...。〔♪雪のワルツ〕

お菓子の国の大広間では踊りがはじまっていました。スペインのチョコレートの踊り、アラビアのコーヒーの踊り、中国のお茶の踊り、そしてロシアのキャンディーが... 次々と踊り出しました。〔♪ロシアのおどり〕

この絵本は音の出るしかけ絵本になっているので音と絵が楽しめます。鮮やかな絵がでてくるページごとに次々に音楽が鳴り、チュチュをつけた4人のマジパンの精が踊り出すと思わずクララも舞台に出て一緒に踊り出しました。〔♪あし笛のおどり〕

最高に楽しい夜... 砂糖漬けの花たちもワルツを踊り、美しいハープの調べにあわせて左右にゆれるように舞い踊ります。みんながよく知っている音楽が流れてきます。〔♪花のワルツ〕

そしてチェレスタの演奏により金平糖の精がクララのためにくるくるとオルゴールの上で回りつづけました。王国の王子様にかけられていた魔法をといてくれたクララのために踊ってくれるのです。そしてクララと王子様は夢のような時間を過ごすのでした。〔♪金平糖の精のおどり〕

すべての踊りが終わると、クララは王子様とドロッセルマイヤーおじさんとともにトナカイのそりに乗り、夜明けの時間を急いで帰ります。ずっとここにいたかったのにと思いながら...。〔♪終幕のワルツ〕

気がつくと、クララは家の大きなクリスマスツリーの下で眠りから目を覚ましました。胸には王子様から人形にもどってしまったくるみ割り人形をしっかり抱きしめたまま...。ハープの夢のように美しい調べとピッコロ、フルート、弦楽器の幻想的な音色が響きます。

クララの見た夢はクリスマスの魔法がかかった夢の旅でした。

皆さまもクリスマスイブの夜には楽しい音楽とともに夢のような夜をお過ごしになりますように...

文章/Ikuko先生