お山の絵本通信vol.189

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ヴィヴァルディの四季』─1日で楽しむ四季─

ケイティ・コットン/文、ジェシカ・コートニー・ティックル/絵
いよりゆうこ/訳、大日本絵画2017年

今年は冬らしい冬と言えるかも知れません。朝、こども達を迎える足元に霜柱が立っていたり、小さなつららが園舎の軒先や鉄棒にぶら下がっているのに気づくことがあります。そんな中、雪起こしの風がゴウゴウと音を立てて吹いていた1月13日、午後から降り出した雪が園内一面真っ白に積もったのが翌14日朝のことでした。この日に予定していた保育内容はほぼ返上し、園庭、ひみつの庭のあちこちで雪を存分に楽しみました。

例年雪の降る日に子ども達と雪玉を手に追いかけっこ、真っ白に積もった雪をかき集めてかまくらや雪だるまづくりをしていると、ときおり太陽の光が射してきてあたりが夢のようにキラキラと輝く美しい瞬間に出会うことがあります。そんな時、どこからか音楽が聞こえてきます。シューマンのピアノ曲「子どもの情景」やアンダーソンの「そり滑り」、ドビュッシーの「こどもの領分 (パルナッスム博士、雪が踊っている)」や、またなぜかごく小さな頃に練習していたソナチネやブルグミュラーのピアノ曲のメロディーのこともあります。でも今年の雪あそびの日に流れてきたのは、ある別の曲でした。

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皆さんはアントニオ・ヴィヴァルディという音楽家をご存知でしょうか。バロック音楽を代表するイタリア ヴェネツィア生まれ(1678-1741)の作曲家でヴァイオリニスト。小さな頃に父親からヴァイオリンの手ほどきを受け、数えきれないほど多くの曲をつくりました。ヴェネツィアのピエタ養育音楽院では親のいない子ども達にヴァイオリンを教え、カトリック教会の司祭を務めました。バロック期と言えば今から300年以上も前でオペラやオラトリオ、カンタータなどの声楽曲や協奏曲が生み出され、ヴィヴァルディのほかに有名なヘンデルやバッハなどが活躍した時代です。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスがこの頃から盛んに製作されましたが、現在のピアノはまだ登場していない頃で、弦を弾いて音を出すチェンバロもこの曲の中に登場します。

もうお分かりかも知れません。この1月の雪あそびの日に浮かんできたのはヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲『四季』の中の「冬」でした(特に魅力的な1,2楽章!)。今はまだ毎日寒くてなにかと不安になるような日々、本当は誰もが次にやってくる冬明けの季節を心の中で待ち望んでいるのではないでしょうか。 それではさっそく絵本『ヴィヴァルディの四季』の「春」のページを開いてみましょう。この本は随所に音の出る仕掛けが施され、絵本の内容に合った音楽(ヴィヴァルディの『四季』)の一節を聞くことができます。また、副題に「一日で楽しむ四季」とあるように、全体が四つのパートで構成され、作者(ケイティ・コットン)がこの曲からイメージする(1)春の朝、(2)夏の昼、(3)秋の夕暮れ、(4)冬の夜の四つの場面が、それぞれ美しい挿絵とともに描かれています。

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「春」

主人公は小さな女の子イザベル。ベッドで目を覚ますと、鳥たちがにぎやかに歌い、春の季節がやってきたようです。鳥の声に耳を傾け、愛犬と一緒に春のお祭りへと出かけます。実際の曲の中では、ソロのヴィオリンとオーケストラのヴァイオリンが交互に掛け合いをしながら、春鳥のさえずりを奏でているのが聞こえてきます。北イタリアはお天気が変わりやすく、すぐに曇り空が広がります。雷鳴の合奏と稲妻のソロヴァイオリンの音色の掛け合いが響き、にわか雨の中を急ぐイザベルの様子が目に浮かぶようです。春のお祭りにつくころ雨も止み、広い青空の下では野原で羊が鳴いて、小鳥がさえずります。

「夏」

お昼になりました。山のてっぺんでピクニックをしたり、一面に咲き誇った花の香りに包まれるような絵が美しい。ページをめくると北イタリアの夏に吹く強い風嵐の場面にかわります。稲妻が光る真っ黒な空。雷がゴロゴロと鳴りはじめ降り出し雨がだんだん強くなります。動物達も逃げまどいながら森の中へと走り出します。やがてカッコウ、ヤマバト、ヒワの泣き声が弦の音の響きとなって聞こえてきます。再び北風が吹き出して荒々しい音で夏が終わり、激しい夏の気象の変化がヴァイオリンを中心とした弦合奏で表現されます。

「秋」

嵐はようやくやみました。お祭りに戻ってきた人々は安心して果実、野菜、麦を収穫し、黄金色の干し草が山と積み上げられました。色鮮やかな木の葉があたり一面に広がり秋のフィナーレを深い紅葉色で見事に描いています。実際の曲の中では村人が歌って踊り、豊かな収穫を喜び合いながらお酒に酔い、やがて眠りにおちる様子を弦楽器の静かな音が表現しています。

「冬」

イザベルが家にたどり着く頃、白い雪が降り始めました。体が冷えないようにと走り回った後、雪だるまを作りました。石の目、人参の鼻をくっつけて完成すると、急に寒さが身にしみてきました。流れる曲は、私の心にも聞こえたあのヴィヴァルディの「冬」。冷たく厳しい風と雪が吹き荒れる中、家路を急ぐ人々の様子がヴァイオリンの弦の力強い音で表されています。

ようやく無事に家に着いたイザベルと愛犬のピックル。絵本には長旅を終え暖炉の前で楽しく過ごす様子が描かれています。窓の外は吹雪いていますが、ここではソロヴァイオリンの穏やかでどこか懐かしいメロディーが聞こえてきます。第2楽章のこの優しいメロディーには日本語の詞がつけられ、NHKの『みんなのうた』で紹介されました。歌詞の内容は、幼いころ母親と一緒に歩いた雪の道を懐かしく思い出すというもので、私はのどかで安らぎを感じるこの歌が好きで、今も口ずさむことがあります。

 「白い道」  作曲 ヴィヴァルディ 作詞 海野洋司

 どこまでも白い ひとりの雪の道
 遠い国の母さん今日も お話を聞いて下さい
 あれからもう三年過ぎ この道にまた白い雪
 さらさら鳴ります

 北国の冬は きびしく辛いけど
 母さんと歩いた道は 暖かい思い出だけ
 れんげの春トンボの秋 忘れません声をあわせ
 歌ったあの歌

 あしたもこの道 歩きますひとりで
 母さんが歩いたように 風の中も負けないで
 歌いましょうあの日の歌 ひとりこの道で

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子ども時代をふりかえると、夕食の後は毎日家族といっしょに歌をうたったことが思い出されます。私はもっぱら幼稚園で覚えてきた歌とこども賛美歌でしたが、父が録音機をテーブルの上にセットすると、マイクを片手に覚えたての新しい歌を自慢げに披露するのが楽しみで、嬉しいことに今でもその録音が残っています。もちろん両親も私の知らないお得意の歌を歌って聞かせてくれました。今のようにカラオケもない時代なので、歌詞も音程も自分でよく覚えていてみんながアカペラで歌いました。妹はまだわずか1、2歳くらいで歌らしい歌になりませんが、微笑ましいことに体を揺らして気持ちよさそうに声を出していました。休日にドライブに出かける時にも、車の中は家族4人で目的地まで大合唱です。その時のことは今も昨日のことのように思い出しますし、ピアノを習い始めたのもその頃でした。今振り返っても、歌や音楽の音色に溢れた幼少期を過ごしていたことを何にも変え難い心の宝物のように思い出すことがあります。絵本を読んであげるのと同じように、やわらかな感性が育つ幼児期には、ぜひ情操教育の一つとしてご家族で音楽を楽しんでいただけたらと思います。

文章/Ikuko先生