お山の絵本通信vol.186

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『パパ、お月さまとって!』

エリック=カール/文・絵、もりひさし/訳、偕成社1986年(改定2版)

はらぺこあおむしの著者でお馴染みのエリック=カール。鮮やかな色と貼り絵ならではの独特な雰囲気は、大人になった今読んでも、気分が明るく開けていくような気がします。今回は、物語を読み終わった時に「あぁ、よかった」と嬉しい気持ちになる、大好きな一冊をご紹介します。

主人公の女の子、モニカがある晩ベッドに行こうとすると、窓から見えたのはまん丸でとても近くに見えるお月さま。

  「お月さまとあそびたいな」

モニカはそう思い、パパに肩車をしてもらいますがお月さまには届きません。

  「パパ、お月さまとって!」

その一言から物語は大きく動き出します。パパはどこからか長い、長いはしごを持ってきて、高い高い山の上に運び、お月さまのところまで登ってしまうのです。そしてパパは大きな大きなお月さまに、娘のモニカが遊びたがっているということを伝えます。しかし、はしごを降りて持って帰るには、少し大きすぎるよう。パパがそう考えていると、お月さまは言いました。

  「わたしはまいばんすこしずつちいさくなっていくんですよ。
  ちょうどよいおおきさになったとき、つれていってくださいな」

本当に、少しずつ小さくなっていくお月さま。ちょうどよい大きさになったお月さまを持ち、モニカのもとへと帰ります。そして、パパがお月さまを手渡すと、モニカはありがとう! と喜び、お月さまとたくさん遊びました。一緒に跳んだり踊ったりして遊ぶ間も、お月さまは小さくなり続け、とうとうモニカの手から消えてしまいます。

それから少したったある晩、モニカは空に細い銀色のお月さまがまた浮かんでいるのを見つけるのでした。

初めはとても大きく、近くに見えたお月さま。丁度いい大きさになり、やっと一緒に遊べるようになったお月さまがどんどん小さくなっていくことに、消えないでという気持ちが膨らんでいきます。本当に消えてしまった時には寂しくなりますが、お月さまはまた、いつも通りに出てきてくれます。モニカの手から消えてしまったお月さまが、また空に浮かんでいるのに気づいた時、「あっ」と嬉しそうなモニカの心の声が聞こえてくるようです。

絵本の中で、モニカがお月さまと心躍る出会いをしたように、幼稚園で過ごす中で、子ども達も様々な出会いをしていることに気付きます。ある日、ひみつの森に出かけた時、子ども達はナナフシという虫を見つけました。木の枝そっくりの真っ直ぐな体から、細く長い足が生えているナナフシ。「かわいい!」と子ども達はすぐそのナナフシに夢中になっていました。可愛さのあまり、頭に乗せて歩いたり、腕を登らせてみたりする子どもの表情は、とても楽しそうで嬉しそうでした。その後、森でたっぷり一緒に過ごしていましたが、とうとう園に帰る時間になってしまいました。たくさん可愛がった分、お別れするのは名残惜しくなるものです。しばらく時間は要しましたが、最後はナナフシのおうちや家族のことを思い、見つけた場所に帰してあげる姿がありました。飼いたい、という気持ちと葛藤し、自分の中でどうするかを決める姿をとても大きく感じ、嬉しく思いました。そして、ナナフシに「バイバイ」と声を掛け、クラスの皆の所へ駆けていくその姿に、少し切ない気持ちにもなりました。

また森に来た時にナナフシに出会えたら、たくさん可愛がって楽しかった時の思い出が蘇るに違いありません。その時はきっと、ナナフシに初めて出会った時とはまた別の、深い喜びを味わうことになるのでしょう。今、幼稚園で元気いっぱい過ごしている子ども達が大きく成長した時、幼稚園で感じた様々な想いや、たくさんの経験を思い返す時が来たら嬉しいなと思っています。

文章/Kaoru先生