お山の絵本通信vol.185

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『あさになったのでまどをあけますよ』

荒井良二/文・絵、偕成社2011年

新型コロナウイルスの感染拡大により、世の中が大きく変わってしまった今、今までの日常が当たり前ではなくなりました。園で子どもたちと集えることも当たり前とは言えない日々となりました。今回は、日常の尊さに気づかせてくれる "何気ない日々の繰り返しの中にある確かな希望と生きることの喜び" を描いた絵本『あさになったのでまどをあけますよ』をご紹介させていただきます。

   「あさになったのでまどをあけますよ
    やまはやっぱりそこにいて
    きはやっぱりここにいる
    だからぼくはここがすき」
 
   「あさになったのでまどあけますよ
    まちはやっぱりにぎやかで
    みんなはやっぱりいそいでる
    だからわたしはここがすき」
 
    朝が来ました。山や海、賑やかな街等、様々な場所に住む
    子どもたちが、朝目覚めると窓を開けます。そして、
    子どもたちは窓から見えるそれぞれの見慣れた景色を
    愛おしみながら新しい1日を迎えていきます。

この絵本は、朝日を浴びて発光しているような優しい色彩がページいっぱいに広がる美しい風景画と、それぞれの故郷を愛おしみ繰り返される素朴な文章で構成されています。私は大学の授業でこの絵本と出会い、温かい光が差し込む表紙絵に一目惚れをしました。美しい風景たちを見て旅をしているような気持ちになり、その中に「見たことがある景色」を見つけると、自分の故郷や思い出を重ね、ノスタルジーな気持ちにさせられます。私は幼い頃から窓の外を眺めていることが好きで、隣の家で飼われている犬の動きや道行く人々をウォッチングして楽しむことがありました。この絵本を読むと、幼少期に住んでいた家の2階から見える景色や、その家で過ごした愛犬との日々が思い出されます。ぜひ皆様もこの絵本を読んで、記憶の中の原風景に出会ってみて下さい。

東日本大震災が起きた2011年の12月にこの絵本が刊行されました。荒井良二さんが風景を題材とした絵本の制作を進めていた中、震災が起こり、この絵本を2011年中に出したいと強く思われたそうです。"朝になったので窓を開ける" という日常的行為と窓の外の見慣れた景色ですが、そんな何気ない日々の尊さが改めて伝わってきます。コロナの影響で夏休みが延長になり、子どもたちの健康を第一に考えてスタートした2学期。今まで通りとはいかない日々ですが、子どもたちは園での日常を全身全霊で楽しんでいます。2学期初日、久しぶりにお部屋で集うことが出来たたんぽぽ組の子どもたちの表情は、友達と出会えた喜びに満ちていました。毎日行うお始まりやお歌の時間でも、みんなで集えることの喜びを「楽しいね」と言葉にして伝え合ったり、笑い合う姿が見られています。特別な何かだけでなく、日常を楽しむ子どもたちの姿が尊く感じられる毎日です。この絵本が伝えてくれているように、子どもたちと過ごすことが出来る何気ない日々を大切に、子どもたちの日常を守っていきたいと思います。

文章/Haruka先生