お山の絵本通信vol.182

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『いもうとのにゅういん』

筒井頼子/文、林明子/絵、福音館書店1987年

この絵本は、私が幼い頃に母に読んでもらったり、自分で読んでいたりした懐かしい一冊です。この絵本がなんだか身近に感じていたのは、私にも妹がいて、お姉ちゃんである主人公の女の子に感情移入をして見ていたからなのかもしれません。今回、絵本通信を書くにあたって久しぶりにこの絵本を読んでみると、また違った見方で主人公の女の子の気持ちを考えること出来て、新鮮な気持ちでこの絵本を読むことが出来ました。

主人公のあさえはお姉ちゃんといっても、まだ幼稚園に通う女の子。幼稚園から帰ってくると大好きで大切にしているお人形の “ほっぺこちゃん” が見当たらず、また妹のいたずらだといって、大声を出していたのでした。すると、ベッドの部屋から出てきたのは、お母さんとぐったりとした妹。体調を崩した妹は入院をすることになったのです。あさえはその日の夜、お父さんと二人で過ごすのですが、妹のことが心配でたまりませんでした。しばらくして、お母さんからの電話で、妹はもう大丈夫だと聞いたあさえは、お見舞いに何を持っていこうかと考えます。折り紙を折ったり、手紙を書いたり。それでも「もっと喜ぶものってなにかな」と、考え、考え、ずっと考え続けました。そして「そうだ!」と思いついたものが、大切にしていたお人形の “ほっぺこちゃん” だったのです。次の日、病院に行ったあさえは、少しドキドキするような、照れくさいような、でもお姉さんの気持ちで妹へ “ほっぺこちゃん” を手渡すのでした。

幼い頃から妹と仲の良かった私は、妹の為に一生懸命何かをプレゼントしようとするあさえの姿や、妹が入院をしてしまって寂しい気持ちなどに共感しながら絵本を見ていたように思います。そして大人になった今、改めてこの絵本を読んだ時に、知らず知らずのうちに主人公のあさえと、幼稚園で過ごす子ども達のことを重ねて見ていたのでした。妹が入院をして、お父さんと二人きりで過ごした一晩で、あさえの気持ちの変化や心の大きな成長が感じられました。考えて考えて、ずっと考え続けて、自分の大切にしていたお人形を入院している妹にあげるという決断は、あさえにとってどれほど大きかっただろうと思います。妹が、にこにこの笑顔で「おねえちゃん、ほっぺこちゃんをくれるの? あたしに? ほんとう?」と尋ねる場面では、“あさえは力を入れてうなずきました” と書かれてあります。きっとあさえの中で色々な葛藤があったと思いますが、その中で、大きく成長した瞬間のように感じました。

幼稚園の子ども達も、色々な想いがあったり、葛藤があったり、そして様々なことをきっかけに日々成長しています。「〇〇ちゃん、僕のおもちゃ壊しちゃってさ。」と話しながらも、「あのね、折り紙で〇〇ちゃんにお土産作って持って帰ってあげるねん。」と、この絵本のように、弟や妹を想いながらお話をしている表情は、とても優しく、頼もしくも見えます。そして、弟や妹に限らず、自分より幼い年中組、年少組の子ども達を想う姿は、一つも二つも大きく見え、この4月5月だけでも、どれほど頼もしい子ども達の姿を見てきただろうと思います。泣いている年少組さんの手を放さずに最後までしっかりと繋いでいてくれたり、ティッシュを鞄から取り出して涙を拭いてあげたり、年少組さんと同じ目線になって、「大丈夫だからね。お部屋はこっちだよ。」と先生のように声を掛けたり。「今日は〇〇ちゃん泣いてなかったよ。」と、ホッとしながら話してくれる姿には驚かされました。自分自身もきっとドキドキしたり、少し甘えたかったりする中で、“お兄さんになるんだ” “お姉さんになるんだ” という強い想いが子ども達を一つ一つ大きくさせているのだなと思います。

絵本の最後には、おかあさんに肩を抱かれ、照れくさそうに微笑むあさえの姿があります。一つお姉さんになれたような誇らしい気持ちと、お母さんに包まれて嬉しい気持ちでいっぱいだったのではないかなと思いました。それぞれの子ども達が色々な瞬間に心を動かしている毎日ですが、その小さな気持ちの変化や、心の葛藤や成長に気付き、寄り添ってこれからも一緒に過ごしていきたいなと思います。


 文章/Chinami先生