お山の絵本通信vol.179

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ダーウィンの「種の起源」 はじめての進化論』

サビーナ・ラデヴァ/作・絵、福岡伸一/訳、岩波書店2019年

今日は風がそよぎ、竹林がそよそよと揺れる穏やかな冬の一日です。空は澄み切った青空で、クジラの形をした雲がたった一つ、開いた窓から見えました。竹林はいつまでも心地よい音を繰り返し奏で、自然とはなんて素敵なノンフィクション番組を見せてくれるのだろうと思いながらもう一度空の中に目をやると、すでに白いクジラは風とともに形を変え、どこにも見つけることはできませんでした。こうして一瞬のうちに刻々と変化していくものが生きた自然であり、いつも同じ姿でとどまることはありません。そんなここお山の中では、季節ごとに見られる自然の生き物の種類や出現の仕方にも年々違いがあり、驚かされることがあります。見たこともない植物や昆虫が突如目の前に姿を見せることがある一方、去年と同じ生き物が今年も姿を現してくれるわけでもありません。

近年気がかりなことは、1学期が過ぎて夏休みに入った8月になると、石段や園庭の砂に見られていた昆虫のナミハンミョウや、エノキやサクラの木の近くで見られるヤマトタマムシが、早くも7月中に姿を現すようになったことです。ところが以前によく姿を現していたアオマダラタマムシやムツボシタマムシはほとんど見られなくなりました。また、春の3月後半から4月後半までの約一ヶ月間に、時期を違えて開花するはずの桜の種であるオオシマザクラ、ソメイヨシノ、サトザクラがいよいよ昨春はすべてが同時期に開花したこと、さらには毎年2月初旬に初鳴きが聞こえていたウグイスの声が、天敵のソウシチョウ(外来種)との縄張り争いが一つの原因でもあるためか近年は5月頃になってようやく聞こえるようになり、またその数年後の昨年は3月早々に聞こえてきたりなど、昔からの季節の便りが大きくずれてきていることを不可思議に思っていました。そんな折、気象庁は、昭和28年から行なってきた生物の季節観測を今年1月から9割方廃止するという驚きのニュースを出し、なるほどと合点しつつも複雑な気持ちになりました。

身近な自然の異変を肌で感じる日々にあって、私達を包む自然環境は本来どのようなものであったのか、また、生物の成り立ちの源はどのようなものであったのか、遡って考えないわけにはいきません。「人間の前って何だったんだろう?」「世界で一番はじめに生まれたのはどんな生き物だったんだろう?」とつぶやく年長の女の子がいました。生まれてまだ5〜6年しか経っていない子ども達がすでに持っている疑問でもあります。

そこで選んだのが今回ご紹介する絵本になります。タイトルは「ダーウィンの『種の起源』」。「はじめての進化論」というサブタイトルがついています。ダーウィンの「種の起源」をやさしく解説した絵本になります。作者は生物学を学んだのちに芸術を学び、科学とアートを結びつける仕事に情熱を傾ける女性で、生物の成り立ちのエッセンスを美しいイラストを添えてわかりやすく語ります。表紙を開くと子ども達も大好きなさまざまなチョウの絵がまず目に飛び込んできます。「この本の最初と最後のページの昆虫の絵を見て、おなじ種類の虫やチョウを、本の中で見つけてください。」と書いてあります。昆虫にあまり興味がない女の子でも「わたしはちょうはすき」という子は多いです。チョウの絵はとても愛らしく、見ているだけでも楽しくなってくるでしょう。どれもが日本の図鑑には見られないものばかり。しかし日本で生息するものと同じ種ではないか、と気づく子がいるかも知れません。

この本の主人公のチャールズ・ダーウィンは、神様を登場させないで生命の多様性を説明するべく、大学を卒業した若き22歳であった1831年から5年間をかけてビーグル号という調査船に乗り世界を見てまわりました。帰国後に研究論文を書きながら23年後の1859年に「種の起源」という本を発表。その時はすでに10人の子どもを持つ父親でもありました。

つづいてページを開いていくと、まず、地球にまだ人間が存在しなかった頃の世界がわかりやすく描かれています。陸上にはチョウ、鳥、リス、シカ、ウサギ、大型恐竜、そして海の中にはオウムガイ、魚、蟹、ウミガメ、恐竜など海の世界の生物がいます。そして私達人間もふくめて生き物は昔から同じ姿で突然現れたのではなく、長い期間をかけて姿が変わり、また同じ動物でも住む場所によって見かけが変わっていくこともあると書かれています。例えば、キリンが高い木の葉っぱを食べるために首をうんとのばしていたら生まれた子の首が長年の間に親よりも長くなっていくことを「進化」と呼んでいます。

途中、ダーウィンが絵の中に登場し、生き物にたくさんの種ができた理由を話しています。絵の中にはクラッカー・バタフライといってカチカチと音を鳴らして飛ぶチョウやアンモナイトの化石も描かれています。そんなチョウが世の中にいたことも私はまったく知らず興味深く読み進めました。

・同じ種のうさぎでも何もかも同じではなく、少しずつ違いがあること。 (個体差)
・人間が飼う犬の品種は340種類。大きさ、形、色や備えた能力はさまざま。
 でも先祖をたどるとたったひとつの種であるオオカミにたどりつくこと。(品種改良)
・さまざまに描かれたハトの種類。でもすべてのハトの先祖はカワラバトという
 一つの種に属すること。
・農場が描かれたページでは、どれが子どもを生むかによって種が変化していくこと。
 牛も羊、鶏や果物も。
・野生のウマやシカの種も人間が何もしなくても子孫は少しずつ変化していきます。18の
 島からなるガラパゴス諸島のフィンチという鳥のくちばしは、島によってくちばしの形
 が異なっていて、お気に入りの食べ物が食べやすい便利な形に変化していること。
・ライオンがシマウマを捕食し、一方ゾウはすごい勢いで増えるとどうなるのだろうか。
 自然界の生存競争では環境に合わせて生き抜いたものが子孫を残すこと。(適応)
・微妙なバランスによって種が増えたり減ったりすること。(自然選択)
・長い年月の小さな変化の積み重ねで大きな変化が生まれ、新しい種が生み出されること
 がある。その何万年ものゆっくりとした動きの中で自分の目で進化を見るのは難しいこと
 であること。
・新しい種が生まれる一方、死に絶える種もあること。(絶滅)

中ほどのページには、種の進化の「樹形図」がわかりやすく図解されたページがあります。人間、動物、植物、昆虫はじめ小さな微生物にいたるまでが描かれていて、私達人間は一番はじめに生まれた生き物の子孫であることがわかります。逆に辿るとそれぞれの生命の起源がわかります。

結論として、
1. 生きものがうまれたときには、ほかの個体とのわずかな違い(個体差)がかならずある。
2. 生き延びて子どもをもつのに役に立つ性質の個体差は、つぎの世代にうけつがれていく。
3. たくさんの子どもをうむ種は多いが、ぜんぶの子どもが生きのびるわけではない。
4. 生きのびるものは、環境にあわせて生き、子どもをうむ適応力がすぐれている。
5. べんりな性質はつぎの世代にうけつがれていき、より一般的なものとなって、やがて
 進化をひきおこす。

このような形でダーウィンの考えたことがまとめられ、「生命のサイクルかくりかえされていくかぎり、わたしたちはほかの動物や植物とともに、この地球で適応と進化をつづけていくでしょう。」という言葉で全体が締めくくられています。

ところで2021年の今日現在、2019年からはじまった新型コロナウィルス大流行の真っ只中にいる私達は、小宇宙とも呼ばれる私達の体の未来にも、私達を取り巻く地球環境の未来にも、希望とともにより多くの不安を抱かざるを得ない状況に置かれています。生き物が誕生した生物世界と進化の歴史を巨視的に眺めながら、未来を担う子ども達のために、人間が古来守り抜いてきた英知を──やって良いことと良くないことの区別を──ふまえつつ、文明社会の在り方をあらためて考えなおすことが重要ではないかと思います。国連では2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするという目標を掲げています。目の前の子どもたちの活躍する30年後の世の中は果たしてどのような世界になっていることでしょう。よりよい未来であることを心から願うばかりです。

他に数冊、楽しく、興味深く読める絵本をご紹介しておきます。特に1〜3は読んでいると勇気と好奇心が溢れ出し、一緒に旅をしているような気持ちになります。どの本も美しい絵で描かれているので、内容は問わず絵を見るだけでも楽しめると思います。

〔参考図書〕
1. チャールズ・ダーウィン、世界をめぐる / ジェニファー・サームズ(作)、まつむら
  ゆりこ(訳)、Kあかつき
2. ダーウィンが見たもの / ミックマニング、ブリタグランストローム(作)、渡辺政隆
  (訳)、福音館書店
3. ダーウィンのミミズの研究 / 新妻昭夫(文)、杉田比呂美(絵)、福音館書店
4. せいめいのれきし / バージニア・リー・バートン(文・絵)、いしいももこ(訳)、
  岩波書店
5. 生命の樹 ── チャールズ・ダーウィンの生涯 ── / ピーター・シス(文・絵)、
  原田勝(訳)、徳間書店
 


 文章/副園長・Ikuko先生