お山の絵本通信vol.173

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『もりのおとぶくろ』

わたりむつこ/文、でくねいく/絵、のら書店2010年

 この絵本は、私が幼稚園の先生になってから出会った絵本です。とても温かい物語で、たくさんの自然に囲まれたお山の幼稚園で毎日を過ごす私にとって、なんだかとても身近に感じるようなお話です。また、思わず情景を思い浮かべながら読んでしまうような大好きな絵本です。

うさぎ町に仲良しの兄妹うさぎが住んでいました。暖かな春の日のこと、こうさぎ達のおばあちゃんが足を怪我してしまいます。こうさぎ達は、おばあちゃんのところにお見舞いへ行くことにしました。こうさぎ達はおばあちゃんに尋ねます。「おばあちゃんはどうしたら元気になるの?」すると、おばあちゃんはこう答えました。「この部屋で森の音が聞けたら元気になるかしら。」

これを聞いたこうさぎ達は、「おばあちゃんに“もりのおと”をあげたいね。」と、“もりのおと”を探しに森へ行くことにしました。森へ着くと、そこには“もりのおと”がいっぱいでした。さらさらそよそよ風の音・しゃらしゃらしゃらら葉っぱの音・ちゅくちゅくぴろろん鳥のうた…。こうさぎたちは大喜び。さて、この“もりのおと”をおばあちゃんのところまで持って帰ることが出来るのでしょうか。

この絵本からはたくさんの森の音が聞こえてきます。静かに耳を澄ませて森の音を見つけた時のこうさぎ達の嬉しそうな姿は、幼稚園で過ごす子ども達の姿にも重なりました。

子ども達と一緒にひみつの森へ行った時のこと、森の道で皆一緒に深呼吸をし、目を閉じました。「どんな音が聞こえるかな?」と声を掛けると、さっきまでお喋りに夢中だった子ども達も一気に耳を澄ましました。すると、たちまち色々な音が聞こえてきます。ゆったりと深呼吸をして、自然の音が聞こえてくる時間は、私自身とても大好きな時間です。「どんな音がした?」と尋ねると、「葉っぱの音がした!」「鳥の声がする!」「蝉の声もしてきた!」と、次々に言葉が返ってきました。中には、「あっちから年中さんの声がしたよ!」と、幼稚園の方を指差す姿も見られました。また秋には、たくさんの落ち葉の上を歩きますが、「うわ〜! ザクザク言ってる!」と子ども達は葉っぱの音に夢中で、葉っぱの上を足踏みして嬉しそうに音を鳴らしながら歩きます。また森に到着すると、「先生見て! こっちの木はこんな音するけど、こっちはちょっと違うで!」と見つけた枝で木を叩いて音を比べて楽しむ子ども達。その木を楽器に見立てて、演奏会が始まったこともありました。もちろん、森だけでなく、自然の音はいつでもそばにあります。ある日のこと、お部屋でお始まりをしようと皆が椅子を準備し始めた時、「あ!」と何名かが窓の外を覗きました。どうしたのかと私も覗いてみると、つき組の階段横の溝を上から水が流れてきていたのです。「水の音がしててん!」と子ども達。「みんなよく気がついたね! どこから流れてきてるんやろうなぁ?」と、その後もその流れる水を見つめながら子ども達としばらくお話をしたのでした。小さな音によく気が付いたなと感心したのを覚えています。

普段何気なく耳にしている自然の音ですが、今回この絵本通信を書きながら、この自然の音たちは、知らないうちに私たちの心を豊かにしてくれているなと改めて感じました。お山の階段を登って行くときに聞こえる葉っぱのトンネルが揺れる音、幼稚園に到着すると聞こえてくるたくさんの鳥たちの声、ビオトープの水の音、…。そんな音を聞いていると何だか心がとてもホッとします。緑がいっぱいの自然の中で、おいしい空気を吸って、たくさんの自然の音を聞きながら、毎日を過ごせることに感謝をして、これからも過ごしていきたいなと思いました。そして、子ども達ともそれらをたくさん共感し合って過ごしていきたいです。

文章/Chinami先生