お山の絵本通信vol.168

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ゴリラのパンやさん』

白井三香子/文、渡辺あきお/絵、金の星社1991年

先日、みんなで楽しんだお買い物ごっこ。終わってからも「今度はお花屋さんをしたいな!」と言ったり、折り紙や画用紙などを使い、工夫して品物を作り、「いらっしゃいませ!!」とお店屋さんムードで盛り上がっている子どもたち。そんな様子を見ていると、ある一冊の絵本が思い浮かびました。それは、『ゴリラのパンやさん』という絵本です。

表紙では、ゴリラさんが一生懸命に粉を伸ばし、パンを作っている様子が描かれ、「このパンやさんは、どんなパンを作るのだろう?」そして、今にもパンの匂いが漂ってきそうな感じがして、魅かれていきます。

このお話は、秋の終わりに丘の上に開店したパンやさん。とっても美味しいパンはいかがですか? でも、全く売れません。なぜなら、パンやさんのゴリラさんの顔が怖いから・・・。そこで、ゴリラのパンやさんはどうすればお客さんが来てくれるかということを一生懸命に考えます。自分ができていなかったことを認め、しっかりと反省し、次へ活かそうと努力していく姿が見られます。そんなゴリラのパンやさんの姿を見ていると、「前回りができるようになりたい」「逆上がりができるようになりたい」と手にまめができるまで毎日何度も何度も鉄棒の練習をする姿、「大縄跳び、今日は30回跳べたから次は50回頑張る」と教えてくれる子どもたちの姿が思い浮かび、その度に私自身も見習わねば、頑張らねばと考えさせられ、励まされます。そして、自分の姿は見せず、指人形で接客を行うことを考え、次は見事に成功します。お客さんが来てくれることの喜びを感じているのも束の間で、順番を守らないきつねのお客さんがやって来ます。

ゴリラのパンやさんは、マナーを守らないきつねさんを見て、思わず自分の姿を現し、きちんと注意し正しいことを伝えます。そんな姿を見たお客さんのうさぎの子どもたちは、怖がって逃げるのではなく、「ゴリラのおじさん、チョコパンちょうだい」、「ぼくはあんぱんとドーナツ」、「わたしクリームパン」と次々と注文をします。

社会的ルールを守る大切さ、そして何より見た目で判断するのではなく、「心の目」を持って物事を見る力の大切さを改めて実感しました。また、私自身のことを振り返る良い機会をもらったように思いました。

そしてゴリラのパンやさんは、最終的には、行列のできるお店となります。絵本の文章には記されていませんが、最後のページではきつねさんも笑顔でパンを購入する姿が、また裏表紙にはゴリラのパンやさんとうさぎの子どもたちとキツネさんが一緒に仲良く遊ぶ姿が描かれ、表から裏表紙にいたるまで、楽しむことができます。

読んだあとは心がポッと温かくなり、子どもだけでなく、大人も改めて「心の目」についても考えさせられ、学ぶことのできる素敵な絵本です。

文章/Tomomi先生