お山の絵本通信vol.166

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『うんどうかいがはじまった』

寺村輝夫/文、いもとようこ/絵、あかね書房1983年

2学期が始まり、運動会に向けての練習が始まりました。今回は運動会シーズンにぴったりの絵本をご紹介させて頂きます。

今日はくりのき園の運動会。赤組も白組もみんな仲良くやりましょう、という園長先生の言葉につねきちは「白組とは仲良くしないよ。赤組、絶対勝つぞ。」と勝ちたくて勝ちたくて仕方のない様子です。さぁ、はじめの競技は大玉ころがし。つねきちのいる赤組は最初こそリードしていましたが、アンカーだったねずみのちゅうこちゃんが、熊のくまおくんに抜かされて負けてしまいます。これに怒ったつねきちは「ちゅうこちゃんなんか白組に行け。代わりにくまおくん赤組に来いよ。」と言いました。しかし、次の競技の障害物競争では、くまおくんよりちゅうこちゃんの方が得意で・・・勝手なことばかり言っているつねきちは最後どうなるのでしょうか。運動会前の今だからこそ、子ども達と楽しみたい一冊です。

子ども達は “勝つ” ことや “一番” が大好きです。日々の保育の中でも、「やった! 今日はご用意1番に出来た!」や「私じゃんけん勝ったで。」というようなことを嬉しそうに話しています。そんな子ども達ですから、つねきち同様とまではいいませんが、多かれ少なかれどの子も運動会の練習を “勝ちたい” という気持ちを持って取り組んでいます。しかし勝つ時もあれば負ける時もあるわけで、嬉しい気持ちになる子がいる反面で、悔しい思いをする子がいます。この二つの両極端な感情を抱いた子ども達に、どう言葉をかけたら良いのか、私は運動会の練習の時期になるとよく考えます。子どもの気持ちに寄り添いながら、次また頑張りたくなるような励ましの言葉や、頑張った姿を認める言葉を掛けたりと、出来るだけ前向きに背中を押すことを心掛けています。運動会までに、子ども達一人一人の違ったドラマがあるのですが、そんな日々を越えながら、練習を重ねる毎日を過ごしています。

私がかつて担任した年長児のリレー練習での出来事です。何度も何度もチームを変えながら色々なメンバーで練習をしてきたのですが、いよいよ運動会直前ということで、本番を想定したチームでのリレーを行いました。始まる前にクラスに分かれて作戦会議の時間を作り、みんなで座って輪になっての話し合い。さぁ、子ども達はどうするかな? と思って見守っていると、ある子が「みんな聞いて! 勝つと信じて走れば勝つ!」と言いました。その真剣な眼差しからは熱い闘志が感じられます。するとそれに続いて、他の子達も「足をしっかりあげて走るんや!」「応援も一生懸命したら勝てるよな!」と次々に意見が出てきました。最後にみんなで声を合わせて『えいえいおー!!』気合い十分で挑んだ結果は、一勝一敗となりました。そんな子ども達の真っすぐな姿に、胸が熱くなったことを今でもよく覚えています。

みんなで一致団結し、それぞれがベストを尽くす。その先に勝敗があって、子ども達はそこで一喜一憂するのですが、本当に大切なのはこの過程にこそあるのではないかと学んだ瞬間でした。自分の為にそして仲間の為に、勝ったり負けたりしながら様々な感情を味わい、同じ気持ちをチームのみんなと共有して噛みしめる期間の中で、子ども達の心は一体どれほど成長することでしょうか。 “みんなでやるから楽しいんだ” 最後に子ども達はすっきりとした顔でそう話していました。もしかしたら絵本の中のつねきちも、この時の場で一緒に取り組んでいたら、勝ち負けを誰かのせいにしたりしなかったのではと思います。

運動会本番でも全員が勝てる訳ではありません。しかし例え悔しい思いをしたとしても、練習も本番も一生懸命に頑張りきった子ども達の顔は大変晴れやかで、胸に光る金メダルよりもキラキラと輝く笑顔が毎年見られています。ぜひ無事に運動会が終わった際には、一か月間かけて練習してきた過程をも全て含めた “よく頑張ったね” の言葉を子ども達に掛けて頂けたらと思います。今年の運動会も沢山の眩しい笑顔が輝くように、あと少しの練習を子ども達と一緒に楽しんでいきたいと思います。

文章/Tsugumi先生