お山の絵本通信vol.149

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ペロペロくんのたからさがし』

井川ゆり子/文・絵、文溪堂2017年

本屋さんで目に留まったカラフルな表紙。帯に書かれた「きみのたからものってなあに?」という言葉に惹かれて手に取った絵本をご紹介させて頂きます。

シロアリクイのペロペロくんは、お母さんからクッキーの空き箱を貰います。とっても素敵な箱だったから宝物を入れよう! と思い、おもちゃ箱の中やお家のお庭を掘ったりして箱に入れる物を探しますが、これといったものが見つかりません。それどころか夢中になって探したので、辺り一面を散らかしすぎて、お母さんに怒られてしましました。仕方がないので家の外に探しに出かけますが、どれも何か少し違っていて、中々宝物には出会えません。「ぼくのたからものってなんだろう?」一生懸命考えたペロペロくんが見つけた宝物とは・・・? 最後のページでは、ペロペロくんの行動がとても可愛らしくて思わず笑ってしまい、読み終わった時に心がほんわか温かくなるような、そんな絵本です。

私もペロペロくんのように、自分にとっての『宝物』とは何かを考えてみました。最初にぱっと思い付いたのは、大好きな祖母から譲り受けたネックレスです。しかし本当にそれが1番大切で、何よりも宝物と言えるのかと聞かれると、自信を持って頷くことは出来ないなと思いました。学生時代の思い出が詰まったアルバムもとても大切ですし、幼稚園の先生になってから子どもたちに貰ったプレゼントの数々も大切にしています。更に考えを突き詰めていくと、物よりも家族や友人といった支えてくれる人たちこそ宝物といえるのではないかな、とも思いました。この質問に答えはないのですが、中々私の宝物はこれだ! と選ぶことは難しく、まさにペロペロくんの気持ちが手に取るように分かりました。

考えに行き詰まったところで、“子どもたちなら何て答えてくれるかな?”と思い、クラスの子どもたちに「みんなの宝物1つだけ教えてって言われたら何?」と聞いてみました。すると、みんな黙って真剣に考え出してくれて、少ししてから口々に「抱き枕かな!」「私はスタンプ!」「僕はゲームが宝物!」と十人十色の色々な宝物を教えてくれました。面白いなと感じたのは、「それが本当に1番大切な宝物なの?」と私が聞くと、どの子も間髪入れずに「うん!」と笑顔で大きく頷いたことです。子どもたちのこの反応に、こんなはっきり言えることって凄いな、自分は色々と難しく考えすぎていたのかもしれないな、と思わされました。子どもならではともいえる、純粋な気持ちはとても素敵だと思います。私のようにどれも大切だから選べないという意見ももちろんありだと思いますが、それではいつまでも答えを決めることは出来ません。ペロペロくんが最後にこれだ! と本当の宝物を見つけられたのは、子どもたちと同じようにシンプルで真っ直ぐな思いがあったからであり、大人になった今だからこそ、複雑になりすぎず、そういう素直さを大切にしていきたいと思いました。

さて、これはその後の話なのですが、こちらが質問したものですから、ある子から「先生の宝物は何なん?」と聞かれました。他の子たちも目をきらきら輝かせながらどんな答えが返ってくるのか待っており、中には「みんなって言わはるんちゃう?」と予想している子もいました。私は「先生の宝物はみんなだよ!」と言いました。「え〜!!」「やっぱりね〜!」と少し照れながら、けれどとても嬉しそうに笑う子どもたちを見て、私まで笑顔になりました。そして、こうやって笑い合いながら過ごしている毎日も、きっと宝物になるのだろうなと嬉しく思いました。こういう何気なくて身近な素敵なことに、どんどん気付いて大切に出来る保育者でありたいと思います。みなさんもぜひ、子どもたちと一緒に自分にとっての宝物とはなにか、考えてみてはいかがでしょうか。

文章/Tsugumi先生