お山の絵本通信vol.145

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ごろりん ごろん ころろろろ』

香山美子/文、柿本幸造/絵、ひさかたチャイルド1984年

うさぎがテーブルを作りました。そのテーブルを皆が使えるようにとくるまに乗せて大好きな切り株のある丘に向かいます。とても重たいものを一生懸命運ぶうさぎですが、突然「おや?」なんだか軽くなった気がします。それはなぜかというと、ろば、きつね、くま、りす、次々と他の動物が黙ってそのくるまを押し、手伝ってくれていたのです。

数年前のある日、クラスで絵の具を使った絵画活動に取り組んだことがありました。子ども達と一緒に活動を終えた後「それじゃあ、お片付けだね。」と声を掛けました。その時私は手洗いやその他出していたお部屋のおもちゃを片付けるようにと声を掛けたつもりでした。ですが、ある子が「よし!」と言い、使っていた絵の具の入っていたカップや筆などの道具を手洗い場へ持って行き、洗い出しました。その子の姿を見て他の子ども達も続いて、一緒に洗ってくれたことがありました。

また、つい最近の出来事ですが、年少組の皆で育てているトマトに水やりをしようということで、子ども達の使うじょうろと水の入ったバケツを運ぼうとした時です。両手のふさがっている私を見て一人の男の子が近くへ来て、ニコッと笑い何も言わずにじょうろを持ってくれ、お友達の元へ運んでくれました。

私はどちらともその時の子ども達の行動に驚いてしまいましたが、さりげない優しさに心がとても温かくなり、嬉しく思いました。こちらが何も言わなくても、子ども達が気付いて何も言わずに手伝ってくれたこと、力を貸してくれたこと…そのことがこの絵本の動物たちの『黙ってお手伝い』の場面と重なって見えました。

お話は後半に入り、皆のおかげもあり、無事丘にテーブルを運ぶことが出来た動物たち。うさぎの作った素敵なテーブルに皆大喜びですが、座るところがただ一つしかありません。するとそれを見たうさぎは一緒に運んでくれた皆にお礼の気持ちを椅子作りでお返しします。夜通しかかり作った皆の椅子。うさぎもそのことをあえて何も言わずに行動する姿に驚くばかりです。

今回改めてこの絵本を読み返し、うさぎ、他の動物たちの『黙って』という行動は、ただ『黙って』ということではなく『自ら進んでやりたいと思う気持ち』が心の底にしっかりと秘められているのだろうと強く感じることが出来ました。

子どもたち同士でのやり取りの中でもそのようなことはあります。涙が出ているお友達がいれば素早くティッシュを手渡す姿、お部屋でお茶がこぼれたら雑巾を取りに行き、拭いてあげる姿など、日常の中でも絵本に出てくるような心温まる姿が沢山見られます。言葉で伝わることの大切さもありますが、例え言葉がなくても心と心が通じ合うことも出来るのだと改めて感じさせてくれる一冊になっています。

誰かの為に、自ら進んで何かを行うことはとても素晴らしいと思います。その力を子ども達が持っていると日々感じることの出来る喜びを幸せに思います。だからこそ子ども達に気付かされることや沢山貰ったものを私自身大切にして、返していけたらと思っています。

文章/Asami先生