お山の絵本通信vol.140

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ラチとらいおん』

マレーク・ベロニカ/作、とくながやすもと/訳、福音館書店1965年

幼い頃から、私にとって絵本はとても大切な存在でした。毎晩、寝る前になると母が絵本を読み聞かせてくれたこと、そしてその時間がたまらなく好きだったことを今でも覚えています。今回は私が今まで出会ってきた沢山の絵本の中から、勇気をくれる一冊をご紹介させて頂きます。

主人公は世界中で一番弱虫の男の子、ラチ。ラチは犬を見ると逃げ出してしまったり、暗い部屋に入られなかったり、友達のことさえも怖いと思っています。そんな弱虫のラチをみんなは馬鹿にし、ラチ自身も飛行士という夢があるけれど、自分は弱虫だから絶対になれないと思っていました。そんな時にラチは、小さくて可愛いけれどとても強いライオンと出会います。ライオンと一緒に過ごす内に、ラチは犬も暗い部屋も大丈夫な男の子になりました。お話の最後、ライオンはラチの元から旅立ちます。何故なら、例えライオンがいなくても、ラチは勇気を持てる子となったからです。

幼い頃の私は、とてもよく泣く子だったようです。しかし母は、そんな私の涙を止めることが出来る魔法の道具を持っていました。それはハンドタオルです。私にはお気に入りのハンドタオルが2枚ほどあって、どれだけぐずっていたとしても、そのハンドタオルを手にすると落ち着くことが出来ていたそうです。うっかりしてハンドタオルを家に忘れてしまった時はもう大変だったようで、他のタオルでは決して納得しない私に手を焼いたと母は話してくれました。出先で落としてしまった時も、必死になって探し回ったこともある程、とにかく私の必需品だったようです。しかし、そんな母の苦労がいつまでも続くということはありませんでした。自分でもはっきりと覚えていませんが、いつの間にか私は成長し、ハンドタオルがなくても泣かない子どもとなったのです。

ラチにとってのライオンと、私にとってのハンドタオルは似ているように思います。ライオンがいるから大丈夫と考え、恐怖に打ち勝ったラチと、ハンドタオルがあれば涙を止めることが出来た私。どちらも、これがあれば大丈夫という心の味方の存在がありました。子どもたちにとって、怖いと思うものに最初から一人で打ち勝とうとすることは中々難しいことです。大人から見たら小さなことでも、「なんだか怖いな」と感じることが沢山あると思います。私が出会ってきた子どもたちの中には、お母さんと離れて幼稚園に行くこと、すべり台を滑ること、一人でトイレに行くことや、小さな虫を触ることなどに、ドキドキしてしまう子がいました。しかしどんな子どもたちでも、ラチにとってのライオンとの出会いのように、何かきっかけがあると「大丈夫!」と、自分で壁を乗り越え、少しずつ自信を付けていくことが出来る力を持っていました。それぞれのきっかけは、一緒にいてくれるお友達の存在だったり、絵本に登場する主人公だったり、お家の人からの言葉だったりと様々です。一度壁を乗り越えることが出来た子どもたちは、きっとこの先、例えその貰った勇気が目に見えなくなったとしても、心の中に勇気を蓄え、次に進める強い子に成長していくことでしょう。ラチがページを捲るごとに逞しくなっていく様子からは、子どもが潜在的に持っているのであろう大きな力を感じます。私は保育者として、子どもたちの力を信じ、一人一人がそれぞれの“ライオン”を見つけられるように、温かく見守っていけたらと思います。

文章/Tsugumi先生