お山の絵本通信vol.135

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『しずくのぼうけん』

マリア・テルリコフスカ/文、ボフダン・ブテンコ/絵、うちだりさこ/訳、福音館書店1969年

私の紹介する絵本は『しずくのぼうけん』です。雨の降る日が多い、梅雨のこの時期にもぴったりな絵本だと思います。

バケツから飛び出したしずくの冒険。お日さまに照りつけられたしずくは、ぐんぐんと空に昇り、やがて地上にぱらぱらと雨になって降りていきます。岩の割れ目に落ちて冷やされ、氷になったしずくが今度は川へと転がり落ち、そして濾過されて水道の水に……と続いていきます。

この絵本との出会いは私が学生の頃になります。教育実習の中で読む絵本を探していた時です。その頃もちょうど6月の梅雨の時期でした。最初に表紙を見て、絵が可愛いと思い、手に取りました。

教育実習期間中、家に帰っては何度も読んで「これでいい?」「大丈夫?」と不安な思いも抱えつつ自分で自分に問いかけながら、練習したことを思い出します。そうして練習を重ね当日に臨みましたが実際の読み聞かせでは抱えていた不安は残ったまま、子ども達の前でドキドキが止まらず、自分の思う通りに読むことが出来ませんでした。とても悔しい思いをしました。

先生になり数年が経ち、この絵本を子ども達と一緒に読みたいと思い、読んだことがあります。最初はやはり以前の思いもあり、緊張してしまいました。しかし、読んでいくとしばらくして子ども達の絵本を見る表情がとても真剣で、じっくり聞いてくれていることを感じました。ちょうどその日は雨が降っていたこともあり、お部屋の窓から見える雨を見て「しずくがいるやん!」「次、どこに行くんやろな。」「またお空に行って雨になって降ってくるんやろな!」など子ども達のさまざまな会話が聞かれました。そして、「お散歩に行こう!」ということになり皆で外に出掛け、傘を差しながら雨のしずく探しをしました。

また最近ではある日、園庭で過ごしていると突然雨が降ってきたことがありました。その時に「良い考えがある! 雨宿り出来るところがあるから皆で行ってみよう。」と言った子がいました。その子の誘いに他の子ども達もそれは良いねと雨宿り探検を皆でしました。歩いていくと、「あれだよ。」という声が聞こえ、その子の指差す先を見てみるとそこは大階段の上の木でした。皆でその木の葉っぱに付くしずくを眺めて「ここは葉っぱの屋根だね。濡れないね。」と言いながらゆっくりと雨宿りをして過ごしました。

子ども達を目の前にし、どのように話をし、伝えたら良いのかと迷うこともあります。しかし、私が言ってみたこと、やってみたことで子ども達はさまざまなことを感じ、返してくれます。その一つ一つの反応に私自身気持ちが動かされ、驚きや嬉しさを感じることが出来ます。また子ども達の声を聞き、そこからつながった活動では思いもしなかった発見が待っているというとても貴重な体験が出来る日々を今とても幸せに思っています。

降る雨の音を聞いたり、その雨水の流れや葉っぱに付くしずくを見ながら改めて『しずくのぼうけん』との出会いと思い出を振り返り、またぜひ子ども達と一緒にこの絵本を読みたいと思いました。

私の大切な思い出の詰まった一冊。ぜひ皆さんにも手に取って頂けると嬉しく思います。

文章/Asami先生