お山の絵本通信vol.125

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ぼくだけのこと』

森 絵都/文、スギヤマ カナヨ/絵、偕成社2013年

この本との出会いは最近です。クラスでひとりひとりが違うことの良さ、大切さを伝えるお話のきっかけにすることもありますし、自分が幼い時に出会っていたら、きっと様々な所でそっと背中を押してくれるひとつの要素にもなったのではないかな、とも思っています。

内容は、主人公が良いことも、ちょっと困ったことも「ぼくだけのこと」を沢山見つけていき、そこに周りの人々がコメントを加えていくというものです。時には恥ずかしいことも、不思議なこともあるけれど、嬉しいことや得意なこともあって、これからも見つけていこうという形で話は終わります。

私は、振り返れば幼い頃から割と憧れる対象を持って過ごしてきていました。それは、偉大な事を成し遂げたとか、一芸に秀でているとかそういう事に対してではなくて、身近にいるお友達の「あっ、そういうことが出来るのか!」「こういう言葉が浮かぶのか!」といった長所に対して反応する事が多かったように思います。

言ってしまえば「隣の芝生は青い」という事になるのかもしれませんが、比べることによって卑屈になるとかそういうことではなく、自分というものに新たな要素として加えたいな、より良くなっていくのではないかな、という思いが知らないうちに働いていたのではないかなと思っています。単純に羨ましいという気持ちです。

その気持ちを原動力に頑張ったこともありました。心掛けたこともありました。でも、大人になった今では、「それも良いけれどね、貴方にもあるじゃない、ほら」と様々な言葉や行動で、私にいつも進む力をくれた親や先生を始めとした周りの大人の人達や、お友達にも感謝しなくちゃいけないな、と感じています。

縄跳びや自転車に乗ることなど頑張りたいことがあると、出来る人はいいなあと思い、自分もぜひ! と奮い立たせて努力をしました。もちろんそれで、出来たという自信が生まれたことも確かです。ただ、その過程の中で、自分がいいなあと思っていた相手から「香織ちゃんはこんな風に出来ることがあっていいなあ」と、言われることがあると、「えっそんな風に見ててくれてたん?」と違う角度から自信をもらえたこともまた事実です。自分では見えていなかった自分の“長所”に気が付いてくれて、伝えてもらえるというのは少しくらいお世辞が混じっていた事があったにせよ、より気持ちを明るいものにしてくれていたと思います。自分の内に持つ自信と、周りから与えてもらえる自信と、両方がとても大切なのではないかと考えます。

日頃の子ども達の会話を聞いていると、沢山違いについての話を耳にします。外見の特徴に始まり、出来ること・出来ないことなどなど・・・。もしかしたら本当に何気なく言っているだけのこともあるかもしれませんが、聞いた側としてはその時に、前向きであれば「よし! じゃあ一緒にやろうか!」と立ち上がるようにし、そうでなくとも「○○ちゃんはこれが出来るやん! 素敵だと思うなあ」と自分の気付いている長所を伝えるようにしています。  

この本を皆で見た時には、そんなに大々的な発見があるような様子ではないにしても、ほんの少しだけでも「違うって面白くて素敵」ということが伝わったのではないかなあと思っています。そうであってほしい願いも込めて。

様々な違いがあって、だから一緒にいることが面白い。いつまでもこのことを伝えられる存在でありたいと思います。そして、これからも私自身きっと、自分が生み出す自信だけではなく、周りから頂けるものにも支えられ、力にして進んでいくのでしょう。それは何よりありがたいことであると頭に置いて、日々を過ごしていきたいと思っています。

文章/Kaori先生