お山の絵本通信vol.89

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『うさぎのくれたバレエシューズ』
安房直子/文、南塚直子/絵、小峰書店1989年

この絵本はバレエ教室に通い5年も経つというのに、そしてバレエが大好きなのに、なかなか上手になれない女の子が出てきます。その女の子のたった一つの願いは「踊りが上手になりますように」ということでした。

ある時届いた不思議な小包には、一足のバレエシューズが入っており、それを履いてみると、ふいに体が軽くなって、「だれかがよんでるわ」と、山の道をどんどん登って行く事が出来るようになりました。そして大きな大きな桜の木の中にあった一軒のくつや。このうさぎのくつやが、女の子にバレエシューズをくれたのでした。くつやを手伝って、桜の木のしるで染めたうすももいろの布で30足ものバレエシューズを作ると、うさぎのバレエ団がやってきてそれを履き、大喜びで踊り出し、女の子も一緒に、風になって、ちょうになって、花びらになって踊ることが出来ました…。気が付くと大きな桜の木の下に、女の子だけがいて、夕方の風に花びらがざざーっと散るばかりでした…。恐くなって家に帰り、見るとバレエシューズはぼろぼろでした。けれども女の子はうさぎたちと一緒に踊ったあの感じを二度と忘れることなく、裸足で踊っても、風になって、ちょうになって、花びらになって踊ることが出来るようになっていました。というお話です。

私が小学生から始めたのはバレーボールでした。きっかけは3年生から参加出来る町の球技大会からでした。1ヶ月ほどの練習、そして大会があるのですが、最初は上手く出来なくて「もう来年は参加するのを辞めよう」なんて思いながら嫌々練習に行っていました。次の年も人数が足りず参加することになり、乗り気でない私は最初行くのも嫌でした。しかし、一度経験していた私は「これ、前出来ていたっけ? あれ? 初めて出来るようになった!」と一つ一つ出来るようになったプレーが増えていることを感じ、嬉しくなっていました。それからバレーボールにどんどんのめり込んでいった私は小中高校生と8年間続けることが出来ました。本格的に打ち込み、自分がやりたいと思うことをやってきたことで、「出来るようになった」ことだけではなく、さらに「もっともっとうまくなりたい」と次の目標を自分自身で立てるまでになっていきました。その中では自分のプレーやチームのことでどうしようと思い悩むことや苦しいと思うことがたくさんありました。しかし、そのようなことがある度に、幼い頃に出会ったこの絵本の女の子のことを考えたり、自分を重ね合わせて何度も読んでいたことを覚えています。読めば読むほど今自分が「うまくなりたい」と思っていることは間違っていないんだと見えない絵本の力が背中を押してくれて、ひたすら頑張り続けることが出来ました。

この絵本との出会いは幼稚園年長の時でした。私はのどの扁桃腺の手術のため、しばらく入院をすることになりました。最初はいつもと違う環境にどきどきわくわくして、楽しい気持ちでしたが、入院をした明くる日には遊びたい! 幼稚園の先生、お友達に会いたい! と寂しくなって、涙が出る日も続きました。そんな中、私の担任の先生がお見舞いに来てくれ、「あさみちゃん、元気?」と優しく声を掛けてくれました。いつも聞いている大好きな先生の声がする…嬉しくて堪りませんでしたが、久しぶりに会うことがとても照れくさく布団に包まっていた記憶があります。そんな私の様子を見ながら先生が「あさみちゃんにぴったりな素敵なお話を持ってきたよ!」と絵本をプレゼントしてくれました。とてもかわいい表紙を見て一目で気に入り、先ほどまで恥ずかしがっていたことも忘れて、絵本をもらった嬉しい気持ちが抑えられず、思わず「やったー! 見る!」と叫んでしまったことも思い出しました。私はそれまで幼稚園でもお家でも、お外へ出て遊ぶことが多く、お部屋の中でも、おままごとのお母さん役をして「お買い物行って来るね!」「お料理作らなきゃ!」と動き回って遊ぶことが大好きでした。実は正直、絵本を自分で開いてみることはあまりなかったのでした。しかし大好きな先生がプレゼントしてくれたとっても素敵な絵本。この絵本をきっかけに絵本を読むことも大好きになり、この絵本をずっと大切にしてきたのです。

幼い頃に、絵本を大好きになるきっかけを作ってくれ、学生の時に悩んだことの助けになってくれたこの絵本、またこの絵本に出会わせてくれた幼稚園の担任の先生にとても感謝しています。

女の子のように「うまくなりたい」と思っていれば、きっといつか、突然、うさぎのバレエシューズを履いたようにうまくなる日が来るのかもしれない、「もっともっと…」「頑張ろうきっと大丈夫」と思うことで必ず乗り越えられると強く思うことが出来る、私にとってとても心強い1冊です。

誰だって、何をするにしても、はじめから上手にやれることはないし、自分のやりたいこともきっとうまくなれるんだ、出来るんだっていうことを、これから子どもたちにも信じていって欲しいし私自身も変わらず、信じていきたいと思っています。

文章/Asami先生