お山の絵本通信vol.87

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『うんどうかいが はじまった』
寺村輝夫/文、いもとようこ/絵、あかね書房1983年

9月になり、幼稚園では運動会の練習が始まります。私は、今年は年長組の担任になりリレーや旗体操、おゆうぎ、かけっこなど…毎日子ども達と一緒に練習しながら過ごしています。その練習の中で、子ども達には勝ち負けにこだわる姿が見られます。そんな子ども達に勝った喜び、負けた悔しさを感じる大切さ、それ以上にみんなで頑張る大切さを伝えたいと思っていたときに出会った一冊です。

この本を読んで、小さい頃私自身は運動会に対してどんな気持ちを持っていたのかなぁと思い返してみました。小学生の頃走ることは好きだけれど、あまり早く走れなっかた私。「みんな走るの早いなぁ…」と思いながら、自分の最大の力を出し切って走っていたのを覚えています。

一生懸命走っていても、五位か最後くらいにゴールし、なかなか早く走れませんでした。友達に「どうしたらそんなに早く走れるん?」と尋ねてみると、友達は「腕を沢山振って走るんやで。あとな…内緒やけど、手をグーして走るんじゃなくて、パーにして走るねん。一緒にやってみよう。」と私のために早く走れる方法を沢山教えてくれました。その日から、運動会に向けて友達と一緒に走って遊ぶ日が多くなりました。気づけば、お友達とこうしたらもっと早く走れるかも…と色々考えて、指先をピンと伸ばして手をパーにしておもいっきり走って楽しんでいる私がいました。

運動会当日、沢山の人の前で走ること、小学生ながらドキドキしていたように思います。しかし、色んな気持ちを持ちながらも友達と一緒に練習した日を思い出したり、友達が近くで応援してくれていたことがすごく心強かったように思います。かけっこは実際一位にはなれず三位の結果でしたが、友達と一緒に頑張れたことが何よりも嬉しくて走り終わった後は達成感でいっぱいでした。

私も小さい頃から、勝ち負けにはこだわっていたけれど、運動会を通してみんなで頑張る大切さ、そしてみんなで一生懸命頑張る楽しさを感じていたことを思い出しました。

この絵本は、動物の運動会のお話です。お話に出てくるきつねのつねきちは、競技に勝ちたいあまり、チームで一緒になったお友達を責めたり…「向こうのチームに行ってきて。そのかわり、○○くんがこっちのチームに来て。」と勝手なことばかりお話してしまい、周りのお友達は、つねきちと一緒に運動会するのが嫌になってしまいます。

そんな中、次の競技はつねきちの苦手なおゆうぎになります。つねきちは、「おゆうぎしない。」と言って、端でみんなの踊っている姿を寂しそうに見ていました。みんながつねきちのことを避ける中、一匹のお友達だけはつねきちのことを心配して「一緒にしようよ。」と誘ってくれます。そのお友達の一言のおかげで、最後はみんなで楽しく踊って過ごすことができるお話です。つねきちのように人を責めたりすることはいけないことですが、動物達のやり取りの中で、みんなで頑張る大切さ、みんなで力を合わせる楽しさを感じられる絵本です。

また、この「お友達の一言」というのは、私が担任としてクラスで過ごす中でもよく見られる光景です。元気がないお友達に、優しい言葉を掛けてあげることが出来たり、お友達の言った一言で頑張ることが出来たりと、子ども達にとってもすごくお友達の存在が大きいことを感じています。

勝ち負けも大切ですが、最後まで諦めず自分の精一杯の力を出し切りお友達と力を合わせよう! と思う気持ちを大切に過ごしてほしいです。また何よりも、お友達と一緒に頑張る楽しさをこれからも沢山感じていってほしいと思っています。

文章/Chihiro先生