あせらずじっくりと――園長日記より

小学校に上がると幼稚園時代になかった「成績表」が登場します。小学校以上の学校教育にとかく「成績表」はつきものです。テストがその代表格ですが、白黒つけてほしくないものに白黒がつく、という経験にとまどいを覚える子どもたちは少なくありません。

「できる・できない」の線引きは重要です。しかしそれとの付き合い方はもっと重要です。「なぜできないの?」は禁句です。おだてるのが答えでもありません。子どもは大人が想像する以上にそのあたりの道理がわかっているので、安易なほめ言葉も厳しすぎる言葉も説得的に聞こえないものです。

子どもに対する言葉がけは親がぜひ工夫していただきたいテーマです。言葉を支える愛情に偽りはなくても、言葉の使い方で子どもは伸びもし、うなだれもします。

10の問題があって、3つしかできなかったケース。なぜできないのか?子どもに聞いても仕方がありません。考えるというより、子どもの行動をよく観察すべきです。

昨日ご紹介したように、子どもにはそれぞれ癖があります。納得がつくまでじっくり考えるタイプの子どもは問題を解かせるとスピードが遅いものです。10問中3つしか手をつけないけれども、その全部が正解であるということもあります。この場合、残り7つには目をつぶり、3つのうち3つもできた!満点だ、とコメントすることは論理的に間違っていません。10という前提にこだわるといつになったら4つめ、5つめができるのか?とあせるばかりです。

反対に10のうち6つ以上できている子がいるとします。問題には全部手をつけてあります。よく考えず、適当に丸をつけた結果です(設問は4択のケースです)。こちらのほうが点数は上になりますが、10年後にどこまで伸びているかは疑問です。

親が見るべきは、その子が「適当に」問題につきあっているか、「じっくり」つきあっているか、その姿勢のほうではないでしょうか(点数や正解率、所要時間などの数字ではなく)。「適当」タイプの子どもは問題を解くことに慣れているかもしれないのですが、解く態度に問題があります。

つまり、集中力がないように傍目に映ります。問題を解く段になって「できなーい」とやる前から白旗をあげることもよくあります。

この手のタイプは本人がせっかちになっています(学年があがると答えの丸写しをすることもあります)。一番大事なことはそうした姿勢を正すこと、問題と正面から向き合う姿勢をきちんと整えることです。ご家庭で「一日にこれだけ」と決めているノルマが重荷になっているケースも多いです。また、手にしているドリルのレベルがワンランク上のものであるケースもしばしば見受けられます。

一言で言えば、大人がせっかちになっているわけです。実際、大人が簡単だと勝手に思い込んでいるレベルのことがおろそかになっているケースがよくあります。本当はワンランク下のドリルを使ったほうがよいのです(小学校3年生なら2年生のものを)。

家庭学習について、問題のレベルと進度の調整を行うのは大人の「務め」です。「責任」ということです。ということは、ここに大人の腕の見せ所があるわけです。問題の量は「腹八分目」にし、その代わり「よく噛む」ようにさせてください。「適当」タイプのお子さんは、「腹いっぱい」なのに口からさらに食事を突っ込まれ、「噛まずに飲み込んでいる」ケースが多々あります。

先日、山の学校で勉強会を開いたとき、基本的には子供同士で教えあっていたのですが、私は「適当」タイプのお子さんにじっくりつきあいました。このタイプの子どもは自分の中で「できる、できない」の区別をきちっとつけることができないので(さいころを振るように問題を解く)、「ここがわからない」とピントを定めて質問できないのです。だから「何を聞いていいかがわからない」、「質問ができない」でそわそわしてしまうのです。

私は遠巻きに問題を眺めると、数値をグラフに直す問題が見えました。5目盛りで100をあらわしているので、1目盛りは20です。その子は20の目盛りをグラフにあらわすとき、1目盛り分だと理解できています。しかし、その子の描くグラフの棒を見ると、鉛筆で殴り書きをしたようになっていて、「そのぎざぎざの平均値はどうも20らしい」という感じでした。

私は横について、いったんその答えを消しゴムで消し、ゆっくり清書させました。そして上級生に来てもらって、そのグラフから数値を読み取るように求めました。きちんとグラフがかけていたら正解を言ってくれるはずです。果たせるかな、「20」と答えてくれました。

普段、学校ではここまで手間隙かけてひとつの問題とつきあわないと思います。でも、家であればできると思います。答えがあっていても、字が丁寧でなければ、親の権限でその文字を全部消しゴムで消し、もう一度清書させてもよいのです。このとき、どのように言葉をかけるかが重要です。命令口調で言うのは逆効果です。

書いた文字を消しゴムで消すのも、子どもに任せるとページを破る勢いで雑に消しがちです。「こうして消すときれいにきえるでしょう?」と優しく言って、親が丁寧に字を消す見本を示します。親が根負けしたら終わりです。子どもにじっくり取り組ませるには、親が子ども以上に心にゆとりを持たなければうまくいきません。

さて、先の生徒には次の関門が待ち構えていました。表の集計をする問題です。縦横の数字の集計は最終的に同じになるはずですが、その生徒の答えは縦の合計と横の合計が1だけ食い違っていました(表計算ソフトならエラー表示が出るところです)。大人の目にもかなり面倒な計算です。

この手のミスをすると、どこで間違えたのか、間違いの原因を自分でさかのぼらなければなりません。「適当」なタイプの生徒にとって一番やっかいな作業です。しかし、このような検算にはコツがあり、そのヒントを示すことで最終的に自力で正解を得ることができました。面倒なことをクリアしただけに、さすがに達成感が顔に表れていました。たかが一問、されど一問。

時間を見ると残り10分でしたが、最後の最後までその生徒は熱心に鉛筆を動かしドリルに取り組んでいました。顔を見ればどういう気持ちで取り組んでいるか、すぐわかります。私自身うれしく思いました。

(山下太郎 2009.9.3)

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