絵本通信:ちびっこタグボート

『ちびっこタグボート』

ハーディー・グラマトキー/文・絵、わたなべしげお/訳、学習研究社1967年(初版)

主人公のトゥートゥはやんちゃな子どものタグボート。日本語で「引き船」、「押し船」と呼ばれるタグボートは、大きな船が港に入るのを誘導したり、岸に着くのを助けたりする大事な仕事をします。大人のタグボートが忙しく仕事に精を出すのを横目に、トゥートゥは仕事が嫌でひとり川遊びに興じてはみんなの邪魔をしてばかり。

あるとき、あんまり大人(のタグボート)を怒らせたのでこっぴどく叱られたあげく、ほかのタグボートたちから笑いものにされてしまいます。心底落ち込んだ彼を奮い立たせたのが力強く働く父の姿。父親のでかトゥートゥは身体も一番大きく、港一番の力持ちです。その父が目の前で勇ましく働いているのを見て、ちびっこトゥートゥは自分も立派に働こうと心に誓います。が、胸を張って次から次へと大きな汽船のそばへ寄っていくのですが、どの船も邪魔なやつだと思って相手にしてくれません(今までの行いが悪すぎた?)。

がっかりして一人ぼっちになったトゥートゥは、気づかぬうちに荒れる海に出てしまいます。そこで彼を待ち受ける大きな事件とは? ここから先は誰もがぐいぐい引き込まれるほど痛快無比の展開です。あらすじは内緒にしておきますが、本当に今までのもやもやが何だったのか? というほどの幸せな結末が待ち受けています。

物語よし、挿絵よし、翻訳よし。三拍子揃った傑作として、私はこの本をお薦めします。とりわけ、男の子をお持ちのご家庭には!と言いますのは、この作品を読んでいると、男の子がどのようなきっかけでムクレたりスネたりするのか。どのようなきっかけで顔を上げてやる気に満ち溢れるのか。そのようなことが手に取るように描かれているからです。キーワードは勇気、責任、挑戦。

男の子なら100の説教をするより、この作品を大好きになってもらうのが一番。「トゥートゥに負けないようにお前もがんばれ」、そう言えばいいでしょう。「トゥートゥだったらそんなことをするかな?」とも。

私がこの本を読んだのは、祖父母に連れられて伊勢参りをしたときのこと。往復の電車の中でワクワクして読みきったことを覚えています。子どもながら小学校生活への不安と期待の入り混じった気持ちのまま春休みを過ごしていたところ、祖父の発案で伊勢参りが実現しました。陽春の伊勢湾に浮かぶ大小様々な船が思い出されます。それは『ちびっこタグボート』の舞台とどこか重なるものでした。当時の私にとって、小さな主人公の心の動きはまるで自分のことのように感じられ、ハラハラドキドキしながら、最後には自分も何か大きなことに挑戦したい気持に包まれました。

子どもは大人が思う以上に自尊心が強いもの。幼稚園時代は、四月になるたび「大きい」学年に進級しましたが、小学校に入ると「大きい組」ではなく一番「小さい組」になります。ちょうどちびっこトゥートゥが味わったような落ち込みが待ち受けるかも知れません。でも、トゥートゥがそうであったように、そんな感情は前向きに生きようとすればこそ生まれるものであり、同時に、トゥートゥがその手本を示したように、それは勇気を出して挑戦することで克服することができる…。作者がこの作品を通じて伝えようとするそんなメッセージは、時代を超え、世代を超えて語り継がれるべきもののように思います。

(2012年1月 山下太郎)

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