『しぜん』A・B1・C1・C2クラス便り(2017年6月)

「山びこ通信」2017年度春学期号より下記の記事を転載致します。

『しぜん』A・B1・C1・C2

担当 梁川 健哲

 Aクラスでは、険しい道を辿って一つ隣の山まで行き、障害物競走や綱引きなど、自分たちでルールを話し合って決めた「運動会」をしたり、木の枝にロープをひっかけてブランコをしたりと、この4月、5月は体を思い切り動かす活動が多かったです。クサイチゴを夢中で頬張ったあとは、ひたすら鬼ごっこをして汗をかく、そんな日もありました。巡る季節の中に散りばめられるそうしたイベントの幾つかは、定番になりつつあります。「いつもの『あれ』しよう!」といったように。
ある時、ふと聞き慣れない鳥のさえずりを耳にして、みんなで声のする方に忍び寄りました。キツツキらしき鳥が、樹の幹を垂直に移動したり、嘴を空に向けて鳴いたりしています。つい先程まで駆け回っていた私たちは、一転して静かに、鳥の姿を少しでも見ようと集中していました。
 このように、静的であれ、動的であれ、みんなにとってはどちらも何かに夢中になっている大事な時間なのだと改めて実感します。
また、このクラスではしぜん日記の発表も盛んですので、興味の対象が様々に異なる仲間同士が発見を共有できる機会として、引き続き活かして行きたいです。低学年が一所懸命に声を出して日記を読み上げるのを、上級生が静かに見守ってくれています。そのことを嬉しく、微笑ましく思います。内容だけを見るなら、既に知っていることであったり、上級生にとっては物足りなさを感じたりすることもあるでしょう。しかし、そこにある発見の喜びや新鮮さを、「かつての自分」のそれと重ねあわせて耳を傾け、或いは言葉をかけてあげて欲しいと願っています。
「秘密基地の修繕もしたいなぁ」「梅ジュースも仕込んでおかないとね」「虫見つけたいなぁ」そんな言葉が最近では飛び交っています。この一年、どのようなストーリーが展開していくのでしょうか。次のページはいつもほぼ真っ白ですが、何かワクワクすることが、必ず待っているはずです。

 Bクラスでは、「しぜんの『生きた』箱庭づくり」の取り組みが、みんなには響いたようで、今のところ活動の軸を成しています。「雑草」と一括りにされる諸々の草、苔や木の芽など、足元の小さな自然に目を向け、それらを用いて小さな庭を作る試みです。
 材料集めに出かけた初回、採取用に渡したトレーの上に、早くもそのまま綺麗な庭を作ってしまった人もいました。ただし、一見して綺麗に並べただけでは、その場限りの庭にしかならず、「生きた」庭にはならないことが、回を重ねる毎に分かってきます。水分が乾きやすく、すぐに元気が無くなってしまうのです。一方、トレーの中にたっぷり水を含ませておいたものや、ガラスを被せてテラリウム状にしたものは、次のクラスまでよく保っています。水分をいかに保つかが鍵で、そのためにはどうすればよいか、みんなと考えながら少しずつ作り進めてきました。
 材料というよりは「庭の住人」を探すつもりで、みんなには、苔や草花を少しだけ「分けてもらう」という気持ち、道などの「すみっこ」に注目すること、この2つを伝えています。「この小さいお花、何だろう」といって連れてきた草が、次のクラスで赤々と実をつけていたり、何も植えていない場所に何かの芽が生えてきたり、そうした意外な発見も楽しみの一つです。石や砂も集めようと出かけた沢で「ダムづくり」に熱中するなど、時に「有意義な脱線」があるのは勿論のこと。
 この小さな装置が、「自然」と向き合う態度に何かしらの変化をもたらしてくれるのではないかという期待や願いが根底にはあるのですが、土を触り始めて無心になっているみんなの様子を見ていると、こちらの理屈は脇に置いたままでいいのかもしれない、という気持ちにさせられます。

 この4月から新しくクラスに入ったC1のみんなは、発見したことを絵や文で書き表したり、また、意見を交わしたりすることに積極的で、そこに喜びを感じてくれているようです。
 例えばAnちゃんは、「種」についての発見を毎回伝えてくれるので、「種」のあれこれについて調べ、深めていくだけでも面白いと思います。ある日、「みんなの分を持ってきたよ」と言って、机の上に並べたカラスノエンドウのさやの一つが、少し触っただけで、パカっと割れて種が飛び出してしまいました。「あれ?さっきは真っ直ぐだったのに、すごくねじれてる」と、しばらくしてからさやの形の変化に気が付きました。こうした一つの出来事だけをとってみても、すごく不思議で面白いことです。
 このように、序盤は静かに自然と向き合うこの雰囲気を大事にしながら活動を進めていき、発見したことについて、さらに調べたり、考えを深めたりすることができればと考えています。一方ではものづくりが好きな生徒さん達なので、先に紹介した「箱庭」の取り組みがその延長線上に来てもピタッとはまるような気がしており、今から楽しみです。

 C2クラスでは、森の奥の「秘密基地」と、沢とが活動の中心になっており、何処へどの順で向かうか、その日のルートをみんなで話し合ってから出発します。
 基地と沢とを繋ぐ斜面のルートは、木々を縫うようにして二つをほぼ一直線に繋いでいます。つづら折りの山道を歩いて通ればズボンを泥んこにする必要も無いのですが、もう久しくみんながそちらを選んだ記憶がありません。
 最初は腰が引けていた何人かも、幾度も滑り降りる・よじ登るを繰り返してきた今、一歩一歩踏みしめながら、逞しく行き来しています。

「これ、踏んだら罰金な」と言い合って、みんなが大事にしている木の苗。

「随分頼もしくなったなぁ」と、そんな後ろ姿を見守りながら最後尾を上っていったあるとき、「先生、掴まって!」という声とともに、先に基地に辿り着いたみんながロープをこちらに垂らし、軽々と私を引き上げてくれたこともありました。
 最近では、ひたすら沢の上流へ向かう日がありました。ただそれだけのことなのですが、定番の沢蟹をはじめ、骨や足跡などの獣の痕跡、モリアオガエルなど、幾つもの出会いや発見に足を止めては感嘆し、横たわる倒木を潜ったり乗り越えたりしながら展開する未だ見ぬ風景に吸い込まれるように、みんなはぐんぐん進むのでした。
 まさしく「冒険」の二文字が似合う仲間たち。基本的にはみんなが目まぐるしく働かせている感覚を信頼し、体得されるところを尊んでいます。私としては何事についても要所で口癖のように「心して、心して…」と伝えながら、みんなが一層絆を深め、自信を強めていけるよう、これからも見守り応援していきたいです。