ヘレノスはヘクトルの兄弟で、予言の術に長ける。彼は、トロイアの劣勢を見て、アテネへの祈願を母ヘカベに依頼するようヘクトルに提案。むろんギリシアびいきのアテネは、この祈願を聞き入れない。
ヘクトルの息子、アステュアナクス。Astu-anaxを直訳すれば「町の主」の意となる。
「万一あなたを失うことになったら、墓の下に入る方がずっとましです。あなたが亡くなったら、私にはもう何の楽しみも残りません。どうか哀れと思って、このままここに残り、子を孤児に、妻を寡婦にしないでください。」
「わたしは父上の輝かしい名誉のため、また私自身の名誉のためにも、常にトロイア勢の先陣にあって勇敢に戦えと教えられてきた。だが、いずれは聖なるトロイアも滅びる日が来ることを知っている。わたしはそなたが敵にひかれながら泣き叫ぶ声を聞くより前に、死んで土の下に埋められたい。」
「どうかこのせがれも私のように、トロイア人の間に頭角を現し、力においても私同様に強く、武威によってトロイアを治めることができますように。また何時の日か、戦場から帰ってきた彼を見て、「あのお方は父君より遥かに優れたお方じゃ」といってくれますように。」
読者はここでヘクトルの運命ーーアキレウスに破れるーーとともに、アステュアナクス(ヘクトルの子)の運命ーートロイア陥落後、高い塔の上から突き落とされるーーを想起することによって憐れみを覚えるであろう。
「どうしたというのだ。あまり思い悩むのは止めてくれ。私の寿命が尽きぬ限り、私を冥界に落とすことはできないのだ。人間という者はひとたび生まれてきたからには、身分の上下を問わず、定まった運命を逃れることはできぬ。さあ、そなたは家へ帰り、機を織るなり糸を紡ぐなり、自分の仕事に精を出し、女中たちには各自仕事にかかるように言いつけることだ。戦さは男の仕事、このトロイアに生を受けた男たちのみなに、取り分けてわたしにそれはまかせておけばいい。」
上に引用した文章の中でも、親子、夫婦の「笑い」と「涙」が交錯して現れている。一方、第22歌では、ヘクトルの死が語られますが、アンドロマケの悲しみはどれほど深いものだったでしょうか。
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