戦争と一人の英雄
ローマの詩人ウェルギリウスは、叙事詩『アエネイス』(アエネアスの物語)をかきました。アエネアスはトロイアの王子でしたが、ギリシア軍との戦いに敗れ(これがトロイア戦争で、ホメロスが『イリアス』の中で描いています)、祖国を脱出しイタリアを目指します。第1巻の冒頭は次のように始まります。
私は戦争と一人の英雄(=アエネアス)を歌おう。運命(さだめ)によって亡命者となり、初めてトロイアの岸辺からイタリアへ、そしてラウィニウムの海岸にたどり着いた英雄を。彼は神々の力によって、陸地においても海の上でも大いに翻弄され、残忍なユーノーの解けぬ怒りのため、戦闘においても多大の辛酸をなめたが、ついには都(=ラウィニウム)を建設し、神々をラティウムの地にもたらした。ここからラティニ人、アルバの長老たち、高きローマの城塞も誕生する。(1-7)
ここには、アエネアスをローマの建国者とする考えが示されます。アエネアスは、トロイアの落ち武者ですが、その彼がローマを建国するというのです。「運命(さだめ)によって亡命者となり」という表現は、ローマの建国とその永遠の発展をよしとするユピテル(ギリシア神話のゼウスにあたる)の意志(fatum(ファートゥム)はユピテルの意志の別名とみなされます)によって、アエネアスは結果的にギリシアを脱出し、イタリアにやってくる、という解釈を示すものです。
ユーノー(ギリシア神話のヘラ)の怒りというのは、いわゆる「不和のりんご」(パリスの審判)に端を発します。ユーノーの怒りを買う英雄の代表としては、ヘラクレスが有名です。事実、アエネアス自身、ヘラクレスを手本とするよう忠告されます。