お山の絵本通信vol.202

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『だるまちゃんとかみなりちゃん』

加古里子/文・絵、福音館書店1968年

今回は、幼い頃に繰り返し読んでいた一冊をご紹介します。

思わず、「何を見て笑っているんだろう?」と気になってしまう表紙から始まり、登場人物の表情の豊かさが魅力的な絵本です。 

だるまちゃんが外に遊びに行こうとしたら、雨がふってきました。そして、雨とともに小さな浮き輪とかみなりちゃんが落ちてきました。かみなりちゃんは涙を流しながら、木の枝に引っかかった浮き輪を「取ってほしい」と言います。だるまちゃんは一生懸命ジャンプをして取ろうとしますが、どうしても届きません。どうしようかと二人で知恵を絞って出した案もうまく行かず、悲しくなってしまいました。

するとそこへ、雲に乗った大きなかみなりどんが迎えに来て、浮き輪を取り、お礼にだるまちゃんをかみなりちゃん達が住む場所へ連れて行ってくれました。

かみなりの世界は、近未来的な世界でした。その中に、昔ながらの遊びや道具が細かく描かれ、どこか懐かしさも感じます。二人はそんな世界で楽しく遊んだりごちそうを食べたりして、最後はお土産をもらい、だるまちゃんは家族のところに帰っていきました。

シンプルながらも、細かい部分まで楽しく描かれた絵を見ていると、まるで二人と一緒に遊んでいるかのような気持ちになってきます。幼い頃は、私も二人の友達になったようで楽しく読んでいたことを覚えています。今回、ご紹介するにあたり久しぶりに読み返すと、幼い頃の気持ちとは違い、表情豊かな二人の姿が幼稚園の子ども達と重なることを感じました。

面白いことや楽しいことを見つけ、それを友達と共有している時の嬉しそうな笑顔。友達との世界に入り込み、夢中になっている表情。困った時に顔を寄せ合い考えている姿。

どんな時でも、友達とのやり取り一つ一つがそれぞれにとって大事な経験となっているんだなと日々感じています。

ある時、お部屋の中で自由遊びをしてると、食べ物のおもちゃが入った箱の引っ張り合いになることがありました。子ども達の声を聞くと、「いやだ! 全部使う!」「私も使いたい!」「皆で使うんだよ!」とそれぞれが主張をしています。どうやら、食べ物のおもちゃを一人で全部使いたい男の子と、分け合おうと伝える子ども達が引っ張り合いになっているようです。

しばらく様子を見守り、そろそろ間に入ろうかなと思ったその時。皆で使おうということを一生懸命伝えていた一人が、「○○くんに使わせてあげよう。」と言って箱を引く手の力を緩めたのです。その思いは、周りの子ども達にも伝わっていき、おもちゃの箱を持っているのはその男の子一人になりました。譲ってあげただけではありません。床にあったおもちゃを集めて、箱に入れてあげる子どもの姿もあったのです。

しばらくして、「先生ー! ご飯作ったよー!」とその男の子がお皿に沢山の食べ物を乗せて持ってきてくれました。「ありがとう」と言って食べていると、後から他の子ども達も「先生ー!」と言って料理を運んできてくれました。お皿の上には、食べ物が並べられています。その男の子に「皆で使っているの?」と聞くと、「うん!」とにっこり笑顔で答える姿があり、おもちゃを全部使えること以上の喜びを感じているようで、私も嬉しく思いました。周りの友達の温かさに触れたことで、心をスッと開けることが出来たのかなとも感じました。

子ども達の遊びや会話する様子を見ていると、こちらが思いもよらない方向に展開していくことが多々あります。この絵本のように、その様子を見ていて「どうなるのかな?」とワクワクハラハラすることも。しかし全ては大事な経験となり、私自身、気付きと学びの絶えない毎日です。そうした、子ども達と過ごす大事な一瞬一瞬を、これからも一緒に楽しんでいきたいなと思っています。

ぜひ、お子様と一緒に、だるまちゃんとかみなりちゃんのいる絵本の世界に入り込む楽しいひと時をお過ごしください。

文章/Kaoru先生