お山の絵本通信vol.131

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『十二の月たち』

ボジェナ・ニェムツォヴァー/再話、出久根 育/文・絵、偕成社2008年

2016年1月後半。現在、季節は冬の真っただ中で、北極の上空にできる巨大な気流“極渦(きょくうず)”により40年ぶりと言われる寒波が到来しています。気温は氷点下となり、近年京都では滅多に見られなかった氷柱(つらら)が庭にお目見えしました。

私自身が幼かった頃は、朝目を覚ますと長い氷柱がどこの家の軒先にも見られ、土には霜柱が立ち、靴で踏みしめながらザクザクと氷のくだける音を楽しんだものでした。そんな頃、子どもに向けてよく語られた冬のお話は、命の境界にも面する寒くて辛い冬のストーリーであるアンデルセン『マッチ売りの少女』、また厳しい自然の描写とともに氷の世界を描いた『雪の女王』などがあり、絵本の中で再現される貧しい暮らしや過酷な自然の姿を、幼いながらも真剣に見つめていたことを思い出します。

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今回ご紹介する絵本『十二の月たち』は、ロシア、チェコ、スロヴァキアなど、広くスラブ地方に伝わる民話を元に、子ども向けにわかりやすく手を入れた再話仕立て(リトールド*)の絵本です。過酷な境遇に生きる善良な女の子マルシュカと、まま母とその娘ホレナが登場し、スラブの厳しい自然の中でお話が展開していきます。ホレナよりも美しいマルシュカは、掃除、料理、洗濯、糸つむぎ、機織り、草はこびをすべて一人でさせられますが、喜びとともに仕事をします。

ある1月の日、マルシュカは姉のホレナから雪山へスミレの花を摘んでくるよう言いつけられますが、春に咲くスミレが雪山に咲いている訳がありません。涙を流しながら山へ向かったマルシュカは、空腹と寒さに震えながらスミレを探し続けました。雪の山頂で凍えながらとうとう神様のもとに召されるようお祈りをしたところで、たき火を囲んですわる12人の男達と出会います。ただ火を見つめている12人の男達は「十二の月」の精でした。マルシュカから事情を聞き、雪のように白い髭をたくわえた「大いなる一月」が「三月」にたのみ、「三月」がたき火の上に杖を振りかざすと火が燃え上がって雪がとけはじめました。木々が芽吹き、草が茂り、ヒナギクのつぼみが色づくと、木の茂みには美しいスミレが咲き乱れました。マルシュカはそれを大きな花束にして摘み、家に帰ってホレナとまま母に渡します。絵本のページには、雪の森から戻ったマルシュカが見事な色のスミレの花束を優しく抱えている様子が美しく描かれています。

また次の日には、雪山に行ってイチゴを摘んでくるようホレナに命令され、家の外に追い出されたマルシュカは涙とともに雪山に向かいます。お腹が空いて、寒さに震えながら再び神様のもとに召されることを祈った時、また昨日と同じくたき火の明かりに導かれます。「大いなる一月」が再び「六月」に頼み、「六月」がたき火の上で杖を振りかざすと瞬く間に火が燃え上がり、雪がとけはじめました。大地が芽吹き、木々の葉が茂り、鳥たちが歌い、森じゅうに花が咲き乱れて夏になりました。そして、木の下にある白い花が咲いたあとが、みるみる赤いイチゴになったのです。マルシュカがエプロン一杯になるまでイチゴを摘み、「十二の月たち」にお礼を言って家に戻ると、家じゅうにイチゴのよい香りが広がりました。それを、ホレナとまま母はお腹一杯になるまで食べるのでした。勿論マルシュカはもらえません。

そしてその次の日は、雪の山にリンゴを取ってくるよう言いつけられます。感謝を知らず欲深いホレナは、マルシュカが命からがら冬の山から得てきたリンゴの数が少ないことに腹をたて、とうとうムチでぶってしまうと脅かします。そして、まま母が止めるのも聞かずに毛皮をはおり、自ら山へと向かいます。ホレナは山頂で「十二の月たち」に出会いますが、挨拶もせずにたき火に手をかざし、火に当たりながらも憎まれ口を言います。その姿を見て、「大いなる一月」が頭の上で杖を振りかざすと、羽布団の羽をまき散らしたように山が吹雪き、冷風が吹きつけました。一歩先も見えなくなったホレナは雪の中を彷徨い、手足もとうとう動かなくなり、マルシュカを呪いながら雪の吹きだまりに倒れました。なかなか戻らない娘をまま母は雪の中に捜しますが、返事はありません。彷徨うまま母にも容赦なく雪が降り注ぎ、冷風が山を吹き抜けました。家に残されたマルシュカは食事の支度をし、子牛の世話をしながら二人の帰りを待ちますが二人の姿はありません。マルシュカは二人のためにお祈りをささげるのでした。

不幸な境遇を受け入れながら喜びを持って日々を生きているマルシュカ。恐ろしいほどの厳しさを持つ北国の自然が不条理を見事に裁くところは、人智を超えた大いなる自然の導きと感じざるを得ません。

寒波が押し寄せている今、冬の自然を親子で体感したり、こうした絵本などから日本よりはるかに厳しいマイナス20度〜40度の極寒の世界に生きる人々がいることについて、傍らに地図や地球儀を置いてゆっくりとお話を交わしてみられてはいかがでしょうか。

文章/Ikuko先生

*原書は、ロシアの詩人サムイル・マルシャークの戯曲「森は生きている」(岩波少年文庫/単行本)の元となるスラブ民話“Dvenadtsat’Mesyatsev”(十二つき)。