お山の絵本通信vol.77

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『10までかぞえられるこやぎ』
アルフ・プリョイセン/作、山内清子/訳、林明子/絵、福音館書店1991年

  自分が好きだったからか、それとも母が好きだったからなのか、今となっては思い出せないのですが、林明子さんの描く絵本が我が家に数冊あったことは何となく覚えています。この本もその中のひとつでした。そしていつしか手放したのち、大人になって本屋さんで再会した、幾つかの絵本のうちの一冊です。

ある日、こやぎが数を覚えます。そして出会う動物を数えていくのですが、数えられた動物達は自分が何をされているのか分からないので、悲しくなったり怒ったり。でもみんなが危ない目にあった時、助けてくれるのは「10までかぞえられるこやぎ」なのです。

お話としては大きく場面が変わったり、ハラハラドキドキするような内容ではありません。どちらかと言えば穏やかに終始しているように思います。それでも私が心の片隅にずっと忘れずに持ち続けていたのは、きっと沢山読んで自分も「こやぎ」になっていたからだと思います。

この本を手にしていた頃の私は、どんなことでも知りたくて、出来るようになりたくて、そして「ほら、お姉ちゃんこんなこと知ってるのよ」と妹やお友達に披露していたような、そんなタイプの子どもだったことを何となく記憶しています。只、当時は少しでも強く言われてしまうとそれだけで萎縮してしまう、実は少し気の弱いところも持ち合わせていました。なので数を覚えて数える“こやぎ”に「私も数を数えられるで」と自分を重ね、更には他の動物達が怒ってしまっても物怖じしない“こやぎ”の姿に、「大丈夫、頑張って!」と応援もしつつ少し憧れていたところもあったのかなぁと思います。

今読めば日常のほんのひとコマを切り取ったような、穏やかなお話だと思えます。でも、場面の中には“とうさんうし”や“うま”が自分を数えた“こやぎ”に対して毛を逆立てて怒るところや、“ぶた”が囲いを壊してまで追いかけてくるところもあって、最初は少し驚かされます。読み始めたときには「数を数えるくらいでそんなに怒る必要がある?」と動物達の姿に疑問を持ったものでした。以前幼稚園で読んだ時の子ども達の反応も、同じようなものでお話の中盤を見つめる目は少し心配そうだったのが印象的でした。でも動物達が船に乗り込み、危うく沈んでしまうところを、“こやぎ”が数を数えられたことで安心を与える事が出来て終わりを迎えられたので読んでいるこちらも一緒にほっと安心する事が出来ていました。“おんどり”が「だれか、かずを かぞえられるものは、いないか!」と叫んだ時に「ぼく かぞえられるよ」と答えた“こやぎ”の姿は本当に頼もしいものがありました。

幼稚園の先生となって、当時の自分のように少しずつ何か知っていったり出来るようになっていく子ども達の側にいる事が出来て、また共に驚いたり喜んだりする事が出来ていることって本当に幸せなんだなぁと感じています。「先生!あんなぁ〜○○○って知ってる?」「先生!見て!こんなん出来るようになったんやで!!」と目を輝かせて伝えに来てくれる子ども達。「嬉しいよね、分かる分かる」なんて思いながら幼なかった自分と重ね合わせているときもあります。

当たり前のように行っていること、知っていることにも最初は「出来た!」と思った感動があったはずで、それが自分にとって大きな成長の一歩になったということを、改めて読んで感じる事が出来ました。これからもそんな大切な一歩を歩んでいく子ども達の側で見守り続けられる存在でありたいと思います。

文章/Kaori先生