お山の絵本通信vol.33

──なつかしい絵本と先生のこえ──

『ガンピーさんのドライブ』
文絵/ジョン・バーニンガム、訳/光吉夏弥、ほるぷ出版1978年

[ガンピーさん]

今は冬枯れの季節。でも時おり窓辺に映る太陽の陽射しを感じるたびにふと嬉しくなり、早く芽吹きの時季が来るのを待ち望んでいるこの頃です。そこで今回の絵本通信では、暖かな太陽の季節を思わせる絵本をご紹介することにします。

この表紙はきっと夏の昼下がり・・・。青い空と緑のつづく野原の道を、風とともに走り抜けていく1台の赤いレトロなオープンカー。中には子どもとたくさんの動物たちが乗っていて、見ているだけで豊かな自然の匂いが漂って来そうです。

この絵本は、ジョン・バーニンガム(1963年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞)の初期の作品です。のどかなイギリスの田園風景の中にあるガンピーさんのお家からはじまるこのお話は、私の娘の小さな頃に、しょっちゅうドライブに出かけていた家族のお出かけシーンとも重なって、娘と過ごす午後の絵本タイムに何度も楽しんだ1冊でした。

丸顔のガンピーさんが、車の整備を終えて細い小道を運転していくと、「いっしょにいってもいい?」と男の子と女の子がやってきました。つづいて、うさぎ、ねこ、いぬ、ぶた、ひつじ、にわとり、こうし、やぎが、「あたしたちもいい?」と集まってきます。ガンピーさんは、「いいとも! ぎゅうぎゅうづめだろうけどね」と言いながら全員を乗せてくれます。

おひさまはキラキラ、エンジンはぽっぽっと快い音をたて、みんなは大喜び。昔の荷馬車の道を通ってワイルドフラワーが咲く野原をつっきってみんなを乗せた車は丘へと向かっていきました。ところが、人生には必ず山あれば谷もあるように、空には黒雲が広がりとうとう雨がポツリポツリ・・・。ついに、ガンピーさんたちを包む道は大雨に見舞われ、タイヤはぬかるみにはまり、泥をかき回してもまったく進めなくなってしまいました。さあ、この先一体どうなってしまうのでしょうか・・・? 

つづいて展開するストーリーには、この絵本が子どもたち、また私たちに伝えようとしているとても大切なことが描かれているように思います。

──ずっとこのまま座席に乗って楽しんでいたいのに──私はしんどい目はしたくないわ──ドロドロになりたくないもの──きっと誰かが何とかしてくれるだろうし──

みんなはそんな気持ちでいたのですが、このままでは本当に山の中に立ち往生してしまうということがわかってからは、何と、一人ずつ車を降りて押し始めたのでした。一人ではきっと無理なことも、みんなが力を合わせたら何倍もの大きな力となります。大勢で何か1つの目的を持ったときには、他人にないところを補い合い自分の力を活かす…。そのように、私たち人間は動くものです。

この絵本の中では、はじめのうちは、タイヤが跳ね飛ばす泥で真っ黒になりながらもひたすらみんなで車を押していましたが、やがて、うしやぶたなど大きな力のある動物は後ろから一心に、そして、うさぎやねこたちは車の横や前方を持って進行方向を定めてハンドルを操作するガンピーさんの力添えをするように位置していました。この、みんなが困難に立ち向かっている真剣なシーンは、見ているこちらも思わず力がこもります。

「やめるな!」と、ガンピーさん。そして、

「おしつづけるんだ! もうちょっとだ! 」と、みんなに声をかけます。

全員の精一杯の力が集まった結果、タイヤは空回りしなくなり、丘のてっぺんへとやっと動いていきました。その頃、空にはまた、おひさまがキラキラ輝いていました。そして、みんなを乗せた車は丘をかけ下り、ガンピーさんのお家へと無事戻ってきました。

「まだ、じかんはたっぷりあるよ」と、ガンピーさん。

みんなは、家の前の川で思いっきり泳いで泥を落としました。夏の午後のひと時がそれは楽しそうに描かれており、試練を乗り越えたあとのお楽しみをみんなは思いっきりエンジョイしているようでした。

ガンピーさんは、何があってもいつも冷静でみんなを叱ったりしません。どうってことのない顔をしているそこが素敵なところなのです。そして、彼の周りにはいつもみんなが大勢集まってきて一緒に遊びます。同じシリーズの『ガンピーさんのふなあそび』も、この絵本の前に出版された愉快なお話ですので、ぜひ親子でご覧になってみてください。

<他のジョン・バーニンガム作  娘と読んだ思い出の本>

   『ガンピーさんのふなあそび』 (ほるぷ出版)
   『ねえ、どれがいい? 』 (評論社)
   『アルド・わたしだけのひみつのともだち』 (ほるぷ出版)
   『クリスマスのおくりもの』 (ほるぷ出版)
   『いっしょにきしゃにのせてって! 』 (ほるぷ出版)

文章/Ikuko先生