お山の絵本通信vol.15

──なつかしい絵本と先生たち──

『ぬぬぬぬぬ』
絵・文/五味太郎、偕成社1994年

[koyagi

私はこの幼稚園に来る前は、保育園に勤めていました。そのころ、とびきり、とまで行かなくても、じんわりとうれしかったことは、絵本・紙芝居を通じて、子どもたちと関われたことです。保育園の廊下に並ぶ本棚は、私には『宝の山』に見えました。そこから掘り出してきた宝を、子どもたちと山分けするのは、何とも愉快なことでした。

いい声でもないし、流暢でもありません。アドリブで、はしょったりつないだりもできません。でも、何か「お話好き」の子どもたちといっしょになって、ある時は車座に、ある時は部屋の片隅で、同じ気持ちを確かめ合えるのが、じんわりと面白くなるのでした。

「ちぇんちぇ! これよんで!」

ある男の子が言い寄って来ます。行事の前でいそがしかったのか、職員机の前で4人(2才児クラスは4人担任でした)が相談しているところへ、男の子はやってきたのでした。 そして「○○ちぇんちぇ!」と、はしから順に一人ずつ呼んでいくのです。大人の輪に入ってあの先生、この先生の名前。それでもだれも読んでくれないので、感極まって、

「ダレカ! これよんで??」

この途方に暮れた表現に、どっとみんなが笑って、先生の中から一人抜け出して、「よしよし、読んであげる」と落着しました。

今回ご紹介するのは、よくその男の子が手にしていた、『ぬぬぬぬぬ』という絵本です。

内容というと、白いおばけが意外なところから顔を出してきて、「ぬ」と言う、それだけです。でも絵のアクションに味があっておもしろいのです。ねこの歩く足音も、「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ」。赤ちゃんへのいないいないバアも、「ぬ」の一言。あとは読み手の演出です。ほとんど子どもたちとコミュニケーションをしているようなもので、一、二才の弟さん妹さんのおられるご家庭では、きっと「モッカイ(もう一回)」とせがまれるのでは、と思います。

文章 Ryoma先生